開発者用ツール
作業の状況
プロジェクト・ノート
ディスカッション・フォーラム
編集ガイドライン
練習用ページ
ページ用ツール
文書の表示
以前のリビジョン
バックリンク
ページの名称変更
サイト用ツール
最近の変更
メディアマネージャー
サイトマップ
ユーザ用ツール
ログイン
検索
コーパスについて
修辞技法のカテゴリー
意味のパターン
レトリックの構文
修辞的効果
用例の出典
annotator_pragmatics:y-hirakawa
annotator_pragmatics:y-hirakawa - バックリンク
バックリンク
先ほどの文書にリンクしている文書のリストです。
「手を麻痺せしめし」
「予が妹を禽獣の手に委(まか)せ」
「予が妹を色鬼の手より救助すべし」
「骨牌(かるた)を闘わせなければならない」
「水面を太鼓の音が虱のように刺している」
「横波がすべって来て」
「横波が大きく伝馬の底を揺(ゆす)り上げた」
「あの風吹烏(かざふきがらす)から聞いておいでなさったかい」
「雨が甚(ひど)くなりまして渓(たに)が膨れてまいりました」
「渓川が怒る」
「提灯の火は威光を弱々と振った」
「細長い輪郭の正しい顔の七十位の痩せ枯(から)びた人」
「真の已達(いたつ)の境界には死生の間にすら関所がなくなっている」
「三時少し過ぎているから、三時少し過ぎているのだ」
「秒針はチ、チ、チ、チと音を立てた」
「戸外の雨の音はザアッと続いていた」
「秒針の動きは止まりはしなかった、確実な歩調で動いていた」
「橋流れて水流れず、と口の中で扱い」
「橋流れて水流れず、と口の中で扱い、胸の中で咬んでいると」
「橋は心細く架渡されている」
「人々が蟻ほどに小さく見えている」
「舫中の人などは胡麻半粒ほどである」
「僕の顔は、味噌をつけたようで、口は裂けてるからなあ」
「赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなした」
「雲が意地悪く光って」
「よだかは、まるで矢のようにそらをよこぎりました」
「山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり」
「雲も赤く燃えているようです」
「羊歯(しだ)の葉は、よあけの霧を吸って青くつめたくゆれました」
「夜だかは矢のように、そっちへ飛んで行きました」
「よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました」
「山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません」
「つくいきはふいごのようです」
「寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました」
「万巻の書に目をさらしつつ」
「万巻の書に目をさらしつつ」
「ただ一つの文字を前に、終日それと睨めっこをして」
「歓びも智慧もみんな直接に人間の中にはいって来た」
「文字の精は彼の眼を容赦なく喰い荒し」
「文字の霊の媚薬のごとき奸猾(かんかつ)な魔力のせい」
「神秘の雲の中における人間の地位をわきまえぬ」
「老博士が賢明な沈黙を守っている」
「夥しい書籍が文字共の凄まじい呪いの声と共に落ちかかり」
「顔色にも黒檀(こくたん)の様な艶が無い」
「盥(たらい)ほどもある車渠貝(アキム)」
「玳瑁(たいまい)が浜辺で一度に産みつける卵の数ほど多い」
「自分の鼻が踏みつけられたバナナ畑の蛙のように潰れていない」
「クカオ芋の尻尾しか与えられない」
「斯ういう時に『けれども』という接続詞を使いたがるのは温帯人の論理に過ぎない」
「その女の黒檀彫の古い神像のような美」
「外には依然陽が輝き青空には白雲が美しく流れ樹々には小鳥が囀っている」
「海盤車(ひとで)に襲いかかる大蛸の様な猛烈さで、彼女はア・バイの中に闖入した」
「一掴みと躍りかかった大蛸は」
「大蛸は忽ち手足を烈しく刺されて」
「柱々に彫られた神像の顔も事の意外に目を瞠(みは)り」
「蝙蝠共も此の椿事(ちんじ)に仰天して」
「エビルは、髪の毛を剃られたサムソンの如くに悄然と、前を抑えながら家に戻った」
「嫉妬と憤怒とがすさまじい咆哮となって炸裂した」
「椰子の葉を叩くスコールの如く、罵詈雑言が夫の上に降り注いだ」
「麺麭(パン)の樹に鳴く蝉時雨の如く、罵詈雑言が夫の上に降り注いだ」
「環礁の外に荒れ狂う怒濤の如く、罵詈雑言が夫の上に降り注いだ」
「ありとあらゆる罵詈雑言が夫の上に降り注いだ。」
「火花のように悪意の微粒子が家中に散乱した」
「雷光のように悪意の微粒子が家中に散乱した」
「毒のある花粉のように悪意の微粒子が家中に散乱した」
「嶮しい悪意の微粒子が家中に散乱した。」
「夫は奸悪な海蛇だ」
「夫は海鼠の腹から生れた怪物だ」
「夫は腐木に湧く毒茸」
「夫は正覚坊の排泄物」
「夫は黴(かび)の中で一番下劣なやつ」
「夫は下痢をした猿」
「夫は羽の抜けた禿翡翠(かわせみ)」
「あの女ときたら、淫乱な牝豚だ」
「あの女ときたら、母を知らない家無し女だ」
「あの女ときたら、歯に毒を持ったヤウス魚」
「あの女ときたら、兇悪な大蜥蜴」
「あの女ときたら、海の底の吸血魔」
「あの女ときたら、残忍なタマカイ魚」
「自分は、その猛魚に足を喰切られた哀れな優しい牝蛸だ」
「その猛魚に足を喰切られた」
「空中に撒き散らされた罵詈」
「罵詈が綿の木の棘の様にチクチクと彼の皮膚を刺す」
「怒りなどという感情はいじけた此の男の中から疾うに磨滅し去っていて」
「怒りなどという感情は今は少しの痕跡さえ見られない。」
「人間は竹のように真直でなくっちゃ頼もしくない」
「発句(ほっく)は芭蕉(ばしょう)か髪結床(かみいどこ)の親方のやるもんだ」
「数学の先生が朝顔やに釣瓶(つるべ)をとられてたまるものか」
「そりゃあなた、大違いの勘五郎(かんごろう)ぞなもし」
「それが勘五郎なら赤シャツは嘘つきの法螺右衛門だ」
「腹の中まで惚れさせる」
「腹の中まで惚れさせる」
「頭の上には天の川が一筋かかっている。」
「荒肝を挫(ひし)いでやろう」
「それじゃ赤シャツは腑抜(ふぬ)けの呆助(ほうすけ)だ」
「大きな丸(たま)が上がって来て言葉が出ない」
「山嵐が稲光をさした」
「庭を星明りにすかして眺めていると山嵐が来た」
「わんわん鳴けば犬も同然な奴」
「五六間先へ遠征に出た」
「日清談判だ」
「日清談判なら貴様はちゃんちゃんだろう」
「日清談判なら貴様はちゃんちゃんだろう」
「樗蒲一(ちょぼいち)はない」
「中学と師範とはどこの県下でも犬と猿のように仲がわるい」
「あいつのおやじは湯島のかげまかもしれない」
「あんなに草や竹を曲げて嬉しがるなら、背虫の色男や、跛(あしなえ)の亭主を持って」
「山嵐の踵(かかと)を踏んであとからすぐ現場へ馳けつけた」
「田舎者でも退却は巧妙だ。クロパトキンより旨いくらいである」
「おれの云ってしかるべき事をみんな向むこうで並(なら)べていやがる」
「新聞にかかれるのと、泥鼈(すっぽん)に食いつかれるとが似たり寄ったりだ」
「おれを間(あい)のくさびに一席伺(うかが)わせる気なんだな」
「月が山の後(うしろ)から顔を出した」
「はやてのように後ろから、追いついた」
「顔がつるつるしてまるで薬缶だ」
「暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降って来るという始末で」
「近所で後架先生と渾名をつけられている」
「これは平の宗盛にて候を繰返している」
「失望と怒りを掻き交ぜたような声」
「大きな船から真白い煙が出て、今助けに行くぞ……というように、高い高い笛の音が聞こえて」
「心が倉皇(あわて)て書かれませぬ」
「緑色に繁茂(しげり)り栄えた島」
「ホントのヤバン人のように裸体になってしまいました」
「笛の音は、最後の審判の日のらっぱよりも怖ろしい響で御座いました」
「喜びの時が来ると同時に、死んで行かねばならぬ」
「この島は天国のようでした」
「ビール瓶は潮の流れに連れられて」
「あの底なしの淵の中をのぞいてみた」
「残狼(おおかみ)のように崖を馳け降りて」
「身体を石のように固ばらせながら」
「風の葉ずれや、木の実の落ちる音が、聖書の言葉をささやきながら」
「風の葉ずれや、木の実の落ちる音が一歩一歩と近づいて来るように思われる」
「離れ離れになって悶えている私たち二人の心を、窺視(うかがい)に来るかのように物怖ろしい」
「太陽も、四方八方から私を包み殺そうとして来るように思われるのです」
「太陽も、襲いかかって来るように思われる」
「アヤ子の、なやましい瞳が、神様のような悲しみを籠めて」
「アヤ子の、なやましい瞳が、悪魔のようなホホエミを籠めて」
「この島の清らかな風と水と花と鳥とに護られて」
「この美しい、楽しい島はもうスッカリ地獄です」
「男が大の字になってグウグウとイビキをかいていた」
「後家さんは、生娘のように真赤になった」
「巡査は逃げるようにこの家を飛び出した」
「歌の節が一々変テコに脱線して」
「心中のし損ねが連れ込まれた」
「お前達二人はスウィートポテトーであったのじゃナ」
「若い男はタタキつけるように云った」
「人が居なくなったかと思う静かさ」
「硝子戸の外でドッと笑いの爆発」
「田舎町の全体が空ッポのようにヒッソリしていた」
「振袖人形がハッと仰天した」
「振袖人形がガックリと死んでしまった」
「若い主人はアヤツリのようにうなだれて」
「これがホンマのアヤツリ芝居じゃ」
「身のまわりの事ぐらいは足腰が立ちます」
「巡査も逃げるように立ち去った」
「チョンガレの古巣は物置みたように、枯れ松葉や、古材木が詰め込まれていた」
「坊主がもとの木阿弥の托鉢姿に帰って」
「数十町歩を烏有に帰した」
「天にも地にもたった一人の身よりである」
「お八重の笑顔は、女神のように美しく無邪気であった」
「元五郎親爺も森の中の闇に吸い込まれて」
「八釜し屋の区長さんが主任みたようになって、手厳しく調べてみると」
「蝉の声の大波が打ち初めた」
「お八重の姿が別人のように変っていたのに驚いた」
「美しかった肉付きがスッカリ落ちこけて、骸骨のようになって仰臥していた」
「全身をそり橋のように硬直させる」
「『やっつけましたので……』と吐き出すように云って」
「あいつらア矢っ張り洋服を着たケダモノなんで」
「坑夫は毒気を抜かれたように口をポカンと開いた」
「お加代というのは色が幽霊のように白くて」
「兵隊さんというのは、活動役者のように優しい青年である」
「ペラペラと、演説みたような事を饒舌り初めた」
「幽霊のように痩せ細った西村さんのお母さん」
「西村さんのお母さんが、青白い糸のような身体に」
「西村さんのお母さんが、まるで般若のようにスゴイ顔つきであった」
「和尚の胴間声が雷のように響いて来た」
「文作は身体中の血が一時に凍ったようにドキンとした」
「切れるように冷たい土を両手で掻き拡げて」
「文作は、頭が物に取り憑かれたようにガンガンと痛み出した」
「家の外には老人や青年が真黒に集まって」
「ベースボールというものは、戦争みたように恐ろしい」
「滝のように流るる汗」
「火の付くように泣く子供」
「別荘の中は殿様の御殿のように、立派な家具家財で飾ってある」
「西洋人のようにヒョロ長い女」
「男はみんなゴリラで、女はみんな熊みたい」
「女はみんな熊みたいに見えるわよ」
「鼻ッペシを天つう向けやがって」
「眩しいほど白い洋服」
「蝉の声が降るように聞こえて来る」
「うちの家内が吾が児のようにしていたもの」
「ハヤテのように板の間に駈け上った」
「東の空はまるで白く燃えているようです」
「鼻は五六寸の長さをぶらりと唇の上にぶら下げている」
「鏡の中にある内供の顔は、鏡の外にある内供の顔を見て」
「庭は一隅の梧桐の繁みから次第に暮れて来て」
「これは端渓です、端渓ですと二遍も三遍も端渓がる」
「その晩は久し振に蕎麦を食ったので、旨かったから天麩羅を四杯平げた。」
「やっぱり正体のある文字だと感心した」
「そして荒涼たる秋が残った」
「大変耳の悪い群衆は、次郎助へこう親切にとりついでやった」
「おさまりのない欠伸の形に拡がっていた」
「と賤(しず)の苧環(おだまき)繰り返して」
「いわゆる『勉学の佳趣』に浸り得る」
「あの『御料人様(ごりょうにんさん)』と云う言葉にふさわしい上方風な嫁でも迎えて」
「鼻は行儀よく唇の上に納まっている」
「蝙蝠が得たり顔に飛んでいる」
「薄白い雲が高い巌壁をも絵心に蝕んで」
「親切な雨が降る度に訪問するのであろう」
「豆が泣きそうな姿をして立っていたり」
「奇麗な水が小さな流れになって走って行きます」
「その記憶さえも年毎に色彩は薄れるらしい」
「腹の底に依然として険しい感情を蓄えながら」
「八の字をよせたまま不服らしい顔をして」
「鼻は上唇の上で意気地なく残喘(ざんぜん)を保っている」
「音がうるさいほど枕に通って来た」
「時代はこの話に大事な役を勤めてゐない」
「始終、いぢめられてゐる犬は、たまに肉を貰つても容易によりつかない。」
「東山の暗い緑の上に肩を丸々と出してゐる」
「雪の色も仄に青く煙つてゐる」
「梢が、眼に痛く空を刺してゐる」
「酒の酔が手伝つてゐる」
「そのまばゆい光に、光沢のいい毛皮を洗はせながら」
「柑子盗人め」
「御眉のあたりにはびくびくと電(いなずま)が起つて居ります」
「めらめらと舌を吐いて立ち昇る烈々とした炎の色」
「良秀の心に交々往来する恐れと悲しみと驚きとは、歴々と顔に描かれました」
「娘の姿も黒煙の底に隠されて」
「焔の舌は天上の星をも焦さうず」
「雲の峰は風に吹き崩されて」
「その余念のない顔付はおだやかな波を額に湛えて」
「その余念のない顔付はおだやかな波を額に湛えて」
「主人の面からは実に幸福が溢るるように見えた」
「ちょっと細君の心の味が見えていた」
「はや不快の雲は名残無く吹き掃われて」
「ごくごく静穏な合の手を弾いている」
「感情(おもい)の遺した余影(かげ)が太郎坊の湛える酒の上に時々浮ぶ」
「その男は鶴の如くに痩せた病躯を運んだ」
「名を知らぬ禽(とり)が意味の分らぬ歌を投げ落したりした」
「薄白い雲が瞬く間に峯巒(ほうらん)を蝕み、巌を蝕み、松を蝕み」
「親切な雨が降る度に訪問するのであろう」
「今もその訪問に接して感謝の嬉し涙を溢らせている」
「暗い波の咆(ほ)えていた海の中」
「影法師が口をあいている」
「一道の殺気がまともに額を打った」
「既に早く射を離れた彼の心」
「人の下風に立つを潔しとしない」
「孔子も初めはこの角を矯(た)めようと」
「季・叔・孟・三桓の力を削(そ)がねばならぬ」
「久しぶりに揮(ふる)う長剣の味」
「こうして魯侯の心を蕩(とろ)かし」
「孔子を上に戴く」
「鳥よく木を択ぶ。木豈(あ)に鳥を択ばんや。」
「鳥よく木を択ぶ。木豈(あ)に鳥を択ばんや。」
「大難に臨んでいささかの興奮の色も無い」
「明哲保身主義が本能としてくっついている」
「孔子というものの大きな意味」
「圭角がとれたとは称し難いなが」
「人間の重みも加わった」
「痩浪人(やせろうにん)の徒らなる誇負から離れて」
「罵声が子路に向って飛び」
「兄の尻にくっ付いて九州下りまで出掛ける気は毛頭なし」
「金が自然とポッケットの中に湧いて来る」
「出たければ勝手に出るがいい」
「おれの大きな眼が干瓢(かんぴょう)づらを射貫いた」
「君子という言葉は字引にあるばかりで生きてるものではない」
「気絶以外の何物にも遭遇することは不可能である」
「沈黙が書斎に閉じ籠もる」
「椅子は劇しい癇癪(かんしゃく)を鳴らし」
「物体の描く陰影は突如太陽に向って走り出す」
「真空が閃光を散らして騒いでいる」
「竜巻が彼自身もまた周章(あわ)てふためいて湧き起る」
「山もうそ寒い空の中へ冷たい枯枝を叩き込んでいたりした」
「時雨が遠方の山から落葉を鳴らして走り過ぎて行く」
「また時雨が山の奥から慌てふためいて駈け出してくる」
「村全体が一つの重々しい合唱となって」
「山の狸や杜の鴉が顔色を変えて巣をとびだすと」
「血走った眼に時雨の糸が殴り込む」
「村の顔役と教員が黄昏をともないながら入場した」
「二百三十六名で未曾有の国難をしょいきる」
「情熱は当面の村難へ舞い戻った」
「心に爽やかな窓が展(ひら)く」
「生きるということは限りない色彩に掩(おお)われている」
「町がうしろに山を背負い」
「二階のある家が両側に詰まっている」
「日は川の方へ廻っていて町の左側の障子に映えている」
「丘がこんもりと緑葉樹の衣を着ている」
「手の上にある一顆の露の玉に見入った」
「川は白泡を噴いて沸(たぎ)り落ちる」
「母の幻に会うために花柳界の女に近づき」
「爪先上りの丘の路を登って行った」
「寒さにいじめつけられて赤くふやけている指」
「なるほど、ではそれが君の初音の鼓か」
「線と色とが其の頃の人々の肌に躍った」
「何十人の人の肌は絖地となって擴(ひろ)げられた」
「人間の足はその顔と同じように複雑な表情を持って映った」
「五年目の春も半ば老い込んだ或る日」
「清吉の顔にはいつもの意地の悪い笑いが漂っていた」
「日はうららかに川面を射て」
「若い刺青師の霊は墨汁の中に溶けて皮膚に滲んだ」
「若い刺青師の霊は墨汁の中に溶けて皮膚に滲んだ」
「不思議な魔性の動物は背一面に蟠(わだかま)った」
「男と云う男は皆なお前の肥料(こやし)になるのだ」
「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」
「自分の身のまわりを裹(つつ)んでいた賑やかな雰囲気」
「想像して見たがお堂の甍(いらか)を望んだ時の有様ばかりが明瞭に描かれ」
「六区と吉原を鼻先に控えて」
「無二の親友であった『派手な贅沢なそうして平凡な東京』と云う奴」
「『派手な贅沢なそうして平凡な東京』と云う奴」
「『派手な贅沢なそうして平凡な東京』と云う奴を置いてき堀にして」
「普通の刺戟に馴れてしまった神経を顫(ふる)い戦(おのの)かす」
「一種のミステリアスなロマンチックな色彩を自分の生活に賦与する」
「『秘密』と云う不思議な気分が潜んでいる」
「秋の日があかあかと縁側の障子に燃えて」
「古画の諸仏が四壁の紙幅の内から光の中に泳ぎ出す」
「種々雑多の傀儡(かいらい)が香の煙に溶け込んで」
「公園の雑沓の中を潜(もぐ)って歩いたり」
「すべて普通の女の皮膚が味わうと同等の触感を与えられ」
「衣装の下に自分を潜ませながら」
「『秘密』の帷(とばり)を一枚隔てて眺める」
「平凡な現実が夢のような不思議な色彩を施される」
「犯罪に付随して居る美しいロマンチックの匂い」
「映画の光線のグリグリと瞳を刺す度毎に」
「鮮やかな美貌ばかりをこれ見よがしに露わにして居る」
「大抵のものは赤シャツ党だ」
「人間の瞳を欺き、電燈の光を欺いて」
「老人は一文字に消えてしまいました」
「伴天連の手もとを追い払われる」
「肩の骨の砕けそうなのをじっとこらえて」
「チュンセ童子はまるで潰れそうになりながら」
「疲れて死にそうです」
「手綱を必要とする弟子もある」
「容易な手綱では抑えられそうもない子路」
「勘太郎の頭が、右左へぐらぐら靡(なび)いた」
「全くターナーですね」
「その魂が方々のお婆さんに乗り移るんだろう」
「どんなに熱の高い病人でも注射の針を逃げまわっていた」
「問題は彼の口である」
「彼の口さえなかったとしたら」
「彼の身体は内心の動揺を押えたりできなかった」
「彼の逞ましい腕は彼の胸倉を叩いたり」
「革命を暗示するような動揺が移っていった」
「村全体が呻いた」
「村そのものが視凝(みつ)めたり」
「一掬(いっきく)の泪(なみだ)を惜しまない」
「そこへ問い合わせる」
「この家へ尋ねて」
「白壁の点綴(てんてつ)する」
「秋を一杯に頬張った」
「眼の下の岩に砕けつつある早瀬の白い泡」
「それへ己れの魂を刺(ほ)り込む」
「味わいと調子とは見つからなかった」
「台に乗った巧緻な素足」
「この女の血がお前の体に交っている」
「皮膚を恋で彩ろうとする」
「朝風を孕んで下る白帆」
「渡し船は水底を衝(つ)いて往復して居た」
「神経を顫(ふる)い戦(おのの)かす」
「瞳を注いだ」
「脳がわるい」
「もう五十の阪に手がとどいて居りましたらうか」
「両岸の山は或時は右が遠ざかったり左が遠ざかったり」
「家が大部分は水の眺めを塞いで」
「道は相変らず吉野川の流れを右に取って進む」
「山が次第に深まるに連れて」
「村里は平和な景色をひろげていた」
「半町ばかり引っ込んだ爪先上りの丘の路」
「女は洗い髪を両肩へすべらせ」
「水の一杯にふくれ上っている川」
「大人になって世間が広くなる」
「甘いへんのうの匂いと、囁くような衣摺れの音を立てて」
「吉野川の流れも、人家も、道も行き止まりそうな」
「見事な刺青のある駕籠舁(かごかき)を選んで乗った」
「この絵は刺青と一緒にお前にやる」
「老人の言葉と怡々(いい)たるその容(すがた)に接している」
「躍る胸に鬘(かつら)をひそめて」
「ああ冷静なること扇風機のごとき諸君よ」
「風である。インフルエンザに犯されたのである」
「皮膚にも似た紙片の中に、自分の母を生んだ人の血が籠っている」
「記憶の糸を手繰り手繰り歯の抜けた口から少しずつ語った」
「どうもあのシャツはただのシャツじゃない」
「水がころころころころ湧き出して」
「沈黙を続けていると、ヒーッ、頭の上から禽(とり)が意味の分らぬ歌を投げ落した」
「諸君は軽率に真理を疑っていいのであろうか?」
「サーッというやや寒い風が下して来た」
「ほん物の雨もはらはらと遣って来た」
「ザアッという本降りになって」
「トットットッと走り着いて」
「玉蜀黍(とうもろこし)の一把(いちわ)をバタリと落した」
「白い庭鳥が二、三羽キャキャッと驚いた声を出して」
「じたじた水の垂れる傘のさきまでを見た」
「外はただサアッと雨が降っている」
「ゆるゆる歩いて明るいうちに早くおうちへお帰りなさい」
「身体の痛みもつかれもとれてすがすがしてしまいました」
「ゴツンと息をのんだ」
「愛すべき単純な若者は返す言葉に窮した」
「隣り合って住んでいる大きな子供」
「東の空はまるで白く燃えているようです」
「赤い眼をまるで火が燃えるように動かしました」
「疲労と倦怠とが、まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を落していた」
「置き忘れたような運水車」
「あたかも卑俗な現実を人間にしたような面持ち」
「死んだように眼をつぶって」
「何かに脅されたような心もち」
「まるでそれが永久に成功しない事でも祈るような冷酷な眼」
「煤を溶したようなどす黒い空気」
「この曇天に押しすくめられたかと思う程、揃って背が低かった」
「陰惨たる風物と同じような色の着物」
「まるで別人を見るようにあの小娘を注視した」
「保吉はあらゆる売文業者のように、目まぐるしい生活を営んでいる」
「あるお嬢さんの記憶は、煙突から迸る火花のようにたちまちよみがえって来る」
「銀鼠の靴下に踵の高い靴をはいた脚は鹿の脚のようにすらりとしている」
「お嬢さんが、日の光りを透かした雲のような銀鼠の姿を現した」
「お嬢さんが、猫柳の花のような銀鼠の姿を現した」
「お嬢さんは通り過ぎた。日の光りを透かした雲のように………」
「お嬢さんは通り過ぎた。花をつけた猫柳のように………」
「云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っている」
「蚤の食ったようにむず痒い」
「内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして眺めていた」
「脂は、鳥の羽の茎のような形をして、四分ばかりの長さにぬける」
「黄金(きん)を敷いたように明るい」
「蠅程の注意も払はない」
「彼等にとつては、空気の存在が見えないやうに、五位の存在も、眼を遮らないのであらう」
「五位は、犬のやうな生活を続けて行かなければならなかつた」
「痩公卿の車を牽いてゐる、痩牛の歩みを見るやうな、みすぼらしい心もち」
「五位はこの語が自分の顔を打つたやうに感じた」
「飴の如く滑かな日の光り」
「霜に焦げた天鵞絨(びろうど)のやうな肩を出してゐるのは、比叡の山であらう」
「悪戯をして、それを見つけられさうになつた子供が、年長者に向つてするやうな微笑」
「落葉のやうな色をしたその獣の背」
「狐は、なぞへの斜面を、転げるやうにして、駈け下りる」
「狐は、風のやうに走り出した」
「五位は、呆れたやうに、口を開いて見せた」
「乾からびた声が、凩(こがらし)のやうに、五位の骨に、応へる」
「赤い真綿のやうな火が、ゆらゆらする」
「――こんな考へが、『こまつぶり』のやうに、ぐるぐる一つ所を廻つてゐる」
「五位は、両手を蠅でも逐(お)ふやうに動かして」
「飼主のない尨犬(むくいぬ)のやうに、朱雀大路をうろついて歩く孤独な彼」
「大殿様と申しますと、まるで権者の再来のやうに尊み合ひました」
「私どもが、魂も消えるばかりに思つた」
「唇の目立つて赤いのが、如何にも獣めいた心もちを起させた」
「魔障にでも御遇ひになつたやうに、顔の色を変へて」
「まるで卍のやうに、墨を飛ばした黒煙と金粉を煽つた火の粉とが、舞ひ狂つて居る」
「人間が、大風に吹き散らされる落葉のやうに逃げ迷つてゐる」
「蝙蝠のやうに逆(さかさま)になつた男」
「獣の牙のやうな刀樹の頂き」
「夜のやうに戸を立て切つた中に、ぼんやりと灯をともしながら」
「酒甕(さかがめ)のやうな体のまはり」
「虎狼と一つ檻にでもゐるやうな心もち」
「金物の黄金を星のやうに、ちらちら光らせてゐる」
「雪のやうな肌が燃え爛れる」
「日輪が地に落ちて、天火が迸つた」
「焔煙を吸ひつけられたやうに眺めて居りました」
「何か黒いものが、鞠のやうに躍りながら、車の中へとびこみました」
「壁代のやうな焔を後にして、娘の肩に縋つてゐる」
「金梨子地のやうな火の粉が一しきり、ぱつと空へ上つた」
「凝り固まつたやうに立つてゐる良秀」
「それでも屏風の画を描きたいと云ふその木石のやうな心もち」
「油のような夕日の光」
「洛陽といえば、まるで画のような美しさ」
「焔(ほのお)の舌は天上の星をも焦さう」
「一人は肥満すること豚児(とんじ)のごとく」
「高尚なること槲(かしわ)の木のごとき諸君よ」
「聡明なること世界地図のごとき諸君よ」
「賢明にして正大なること太平洋のごとき諸君よ」
「明敏なること触鬚(しょくしゅ)のごとき諸君」
「余の妻は麗はしきこと高山植物のごとく」
「冷静なること扇風機のごとき諸君よ」
「余は空気のごとく彼の寝室に侵入する」
「余は影のごとく忍び出た」
「黄昏に似た沈黙がこの書斎に閉じ籠もる」
「何本もの飛ぶ矢に似た真空が閃光を散らして騒いでいる」
「黒い塊が導火線を這うように驀地(まっしぐら)にせりあがってきた」
「動揺が、電波のように移っていった」
「村全体が地底から響くように呻いた」
「村そのものが埋葬のようにゆるぎだした」
「遠い山からそれを見ると、勤勉な蟻に酷似していた」
「彼は滑りすぎる車のように、実にだらしなく好機嫌になった」
「蒼空のような夢」
「生きるということは、ハアリキンの服のように限りない色彩に掩(おお)われているもの」
「案山子のように退屈した農夫たち」
「慎しみ深い心の袋」
「押し潰したように軒が垂れ」
「格子や建具を、貧しいながら身だしなみのよい美女のように見せている」
「光線は、身に沁みるように美しい」
「柹(かき)の粒が、瞳のように光っている」
「丘が、緑葉樹の衣を着ている」
「葉が、金粉のようにきらめきつつ水に落ちる」
「台棟と庇だけが、海中の島のごとく浮いて見える」
「果実は、あたかもゴムの袋のごとく膨らんで」
「果実は、琅玕の珠のように美しい」
「この山間の霊気と日光とが凝り固まった気がした」
「あの鼓を見ると自分の親に遇ったような思いがする」
「指のさきちぎれるようにて」
「その紙は、こんがりと遠火にあてたような色に変っていた」
「老人の皮膚にも似た一枚の薄い紙片」
「あたかも漁師町で海苔を乾すような工合に、長方形の紙が行儀よく板に並べて立てかけてある」
「その真っ白な色紙を散らしたようなのが、きらきらと反射しつつある」
「津村は『昔』と壁ひと重の隣りへ来た気がした」
「消えかかった記憶の糸を手繰り」
「梁や屋根裏が、塗りたてのコールターのように真っ黒くてらてら光っていた」
「人の肌は、絖地(ぬのじ)となって擴(ひろ)げられた」
「人間の足はその顔と同じように複雑な表情を持って」
「その女の足は肉の宝玉であった」
「われとわが心の底に潜んで居た何物かを、探りあてたる心地であった」
「八畳の座敷は燃えるように照った」
「古の民が天地をピラミッドとスフィンクスとで飾ったように、清吉は人間の皮膚を自分の恋で彩ろうとする」
「琉球朱の一滴々々は、彼の命のしたたりであった」
「彼は其処に我が魂の色を見た」
「月が屋敷の上にかかって、夢のような光が流れ込む」
「さす針、ぬく針の度毎に、自分の心が刺されるように感じた」
「糸のような呻き声」
「蜘蛛の肢は生けるが如く蠕動(ぜんどう)した」
「その瞳は夕月の光を増すように、だんだんと輝いて」
「女は剣のような瞳を輝かした」
「瀬の早い渓川のところどころに、澱んだ淵が出来るように、下町の雑沓に挟まりながら閑静な一郭(いっかく)が、なければなるまい」
「パノラマの絵のように、表ばかりで裏のない景色」
「広い地面が果てしもなく続いている謎のような光景」
「夢の中でしばしば出逢うことのある世界のごとく思われた」
「私の神経は、刃の擦り切れたやすりのようにすっかり鈍って」
「室内は大きな雪洞(ぼんぼり)のように明るかった」
「ちょうど学校の教員室に掛っている地図のように、所嫌わずぶら下げて」
「ちょうど恋人の肌の色を眺めるような快感の高潮に達する」
「重い冷たい布が粘つくように肉体を包む」
「甘皮を一枚張ったようにぱさぱさ乾いている顔」
「歩くたびに腰巻の裾は、じゃれるように脚へ縺(もつ)れる」
「女のような血が流れ」
「女のような血が流れ」
「芝居の弁天小僧のように、さまざまの罪を犯したなら」
「眼つきも口つきも女のように動き」
「女のように笑おうとする」
「囁くような衣摺れの音」
「始めて接する物のように、珍しく奇妙であった」
「『秘密』の帷(とばり)を一枚隔てて眺める」
「廃頽した快感が古い葡萄酒の酔いのように魂をそそった」
「遊女の如くなよなよと蒲団の上へ腹這って」
「霧のような濁った空気」
「顔のお白粉を腐らせるように漂って居た」
「私の酔った頭は破れるように痛んだ」
「渓底から沸き上る雲のように、階下の群衆の頭の上を浮動して居る煙草の烟」
「水のしたたるような鮮やかな美貌」
「宝石よりも鋭く輝く大きい瞳」
「無数の男が女の過去の生涯を鎖のように貫いて居る」
「一人の男から他の男へと、胡蝶のように飛んで歩く」
「円い眼が、拭うがごとくに冴え返り」
「ただこの薄禿頭、お恰好の紅絹(もみ)のようなもの一つとなってしもうたか」
「蛮人のような瞳を据えて」
「川が軒と軒とを押し分けるように」
「その竹へ、馬にでも乗るように跨りました」
「空間の一ヶ所を穴ぼこのように視凝(みつ)めたり」
「これは金言のように素晴らしい思いつきの言葉だった」
「踊るような腰つき」
「土用干のごとく部屋中へ置き散らして」
「銀鼠の姿を現した」
「この傍観者の利己主義をそれとなく感づいた」
「この朔北の野人は、生活の方法を二つしか心得てゐない」
「広庭一面、灰色のものが罩(こ)めた」
「おれが思っていた女」
「色も少しは白かったろう」
「ある娘に思われた」
「誰か何か云ってるぜ」
「老人は顔色を失い」
「容易な手綱では抑えられそうもない」
「肩や胸が自分のものかどうかもわからなくなりました」
「手綱を必要とする弟子もある」
「夜が明け放たれた」
「甥こそいい面(つら)の皮だ」
「教頭は赤シャツ」
「時計はいそがしく十三時を打ち」
「竜巻が周章(あわ)てふためいて」
「時雨が山の奥から慌てふためいて駈け出してくる」
「思わず卒倒してしまう感激した」
「私は月の前の星のように果敢なく萎れてしまう」
「曇りのない鮮明な輪郭をくッきりと浮かばせて」
「手をちらちらと魚のように泳がせている」
「顔面のすべての道具があまりに余情に富み過ぎて」
「女の容貌の魅力にたちまち光を消されて」
「女の容貌の魅力に蹈(ふ)み附けられて行く口惜しさ」
「好奇心と恐怖とが、頭の中で渦を巻いた」
「提灯の火が一つ動き出して」
「ミステリーの靄(もや)の裡(うち)に私を投げ込んで」
「白い両腕を二匹の生き物のようにだらりと卓上に匍(は)わせた」
「笑いは泪より内容の低いもの」
「笑いは泪より内容の低いもの」
「喜劇が泪の裏打ちによって抹殺を免かれている」
「喜劇(コメディ)というものが危く抹殺を免かれている」
「芸術の埒外(らちがい)へ投げ捨てられている」
「感激のあまり動悸(どうき)が止まって卒倒する」
「『芸術』の二文字を語彙の中から抹殺して」
「この厄介な『芸術』の二文字を語彙の中から抹殺して」
「喜劇は泪の裏打ちによって人を打つ」
「寓意や泪の裏打ちによって人を打つ」
「時代の人を盲目とする蛮力(ばんりょく)に驚きを深くせざるを得ない」
「最低のスペシアリテまでは読者の方で上って来なければならぬ」
「スペシアリテ以下にまで作者の方から出向いて行く法はない」
「心臓を展(ひら)くことを拒む」
「自分とは関係のない存在だと切り離してしまっていた」
「阿賀川の水がかれてもあそこの金はかれない」
「父の中に私を探す」
「父の中に私を探す」
「私は親父の同じ道を跡を追っている」
「咢堂の厭味を徹底的にもっている」
「持病で時々死の恐怖をのぞき」
「死と争ってヒステリーとなり」
「私の胸は切なさで破れないのが不思議であった」
「この切なさで子供とすぐ結びついてしまう」
「それは健康な人の心の姿ではない」
「父は晩年になって長男と接触して」
「そして、石が考える」
「天下の冬を庭さきに堰(せ)いた新しい障子」
「天下の冬を庭さきに堰(せ)いた」
「堅い信念が根を張つてゐた」
「彼一人が車輪になって」
「枯野に窮死した先達を歎かずに、薄暮に先達を失った自分たち自身を歎いてゐる」
「人情の冷さに凍てついて」
「寝静まった通りに凝視(みい)っていた」
「起きている窓はなく」
「深夜の静けさは街燈のぐるりに集まっていた」
「仄白く浮かんだ家の額」
「深い霧のなかを影法師のように過ぎてゆく想念」
「ネエヴルの尻のようである」
「生活に打ち込まれた一本の楔(くさび)」
「生活に打ち込まれた一本の楔」
「また一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた」
「また一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた」
「彼は病める部分を取出して眺めた」
「それはなにか一匹の悲しんでいる生き物の表情」
「榊の葉やいろいろの花にこぼれている朝陽の色」
「新聞紙が一しきり風に堪えていた」
「鈴の音は腰のあたりに湧き出して」
「鈴の音は彼の身体の内部へ流れ入る澄み透った溪流のように思えた」
「鈴の音は身体を流れめぐって」
「彼の血を洗い清めてくれる」
「彼の小さな希望は深夜の空気を顫(ふる)わせた」
「私の病んでいる生き物」
「暗黒が絶えない波動で刻々と周囲に迫って来る」
「光がはるばるやって来て」
「光が私の着物をほのかに染めている」
「深い溪谷が闇のなかへ沈む」
「山々は私のいるのも知らないで話し出した」
「尾根が蜿蜒(えんえん)と匍(は)っている」
「心が捩じ切れそうになる」
「肺病は陰忍な戦いである」
「俺は石だぞ」
「河鹿(かじか)が恐る恐る顔を出す」
「すでに私は石である」
「彼らの音楽ははたと止まった」
「その声は涙を催させるような種類の音楽である」
「雄の鳴くたびに『ゲ・ゲ』と満足気な声で受け答えをする」
「感傷の色が酔いの下にあらわれて」
「世間に住みつく根を失って」
「僕一人が浮草のように流れている」
「青年の顔にはわずかばかりの不快の影が通り過ぎた」
「新しい客の持って来た空気」
「心にのしかかって来た」
「自分と同じような人間を製造しようとしていた」
「だんだんもつれて来る頭」
「生島はだんだんもつれて来る頭を振るようにして」
「自分の心を染めている」
「顔には浮世の苦労が陰鬱に刻まれていた」
「花弁をこぼした紅白の山茶花」
「人間は猫属の言語を解し得るくらいに天の恵に浴しておらん」
「いよいよ牡蠣の根性をあらわしている」
「あの牡蠣的主人がそんな談話を聞いて」
「そんな浮気な男が何故牡蠣的生涯を送っているか」
「汁の中に焦げ爛れた餅の死骸」
「細君がタカジヤスターゼを突き付けて詰腹を切らせようとする」
「住む人間は代々の家の虫で」
「家づきの虫の形に次第に育って行く」
「自分の部屋のようで可愛がる気持になる」
「家の虫の狭い思索と感情の限界がさし示されている」
「私のふるさとの家は空と、海と、砂と、松林であった」
「海と空と風の中にふるさとの母をよんでいた」
「私も亦家の一匹の虫であった」
「石が死にかけてから真剣に考えはじめ」
「その姿が風であって見えない」
「私の胸は悲しみにはりさけないのが不思議であり」
「罪と怖れと暗さだけでぬりこめられている」
「空の奥、海のかなたに見えない母をよんでいた」
「ふるさとの母をよんでいた」
「一つの石が考えるのである」
「私はこの人の面影を高貴なものにだきしめていた」
「ただその面影を大切なものに抱きしめていた」
「そういう家自体の罪悪の暗さ」
「性格の上にも陰鬱な影となって落ちており」
「性格の上にも陰鬱な影となって落ちており」
「二人の肉体を結びつけた」
「石津はオモチャにされ、踏みつけられ」
「踏みしだかれて、路上の馬糞のように喘いでいる」
「甘んじて犠牲になるような正しい勇気も一緒に住んでいる」
「一番鬮(くじ)の本鬮はドッチミチこっちのもんだ」
「ドッチから先に箸(はし)を取ろうか」
「イルミネーションの海の底を続き」
「馬車と電車の洪水でサ」
「拙ない女文字を走らせる」
「死ぬかと思われるほどの不思議な驚きに打たれました」
「不思議な悩ましさが眼の前に押し迫って」
「私は運命の手に抱かれて」
「お母様は井ノ口家のたった一粒種で御座いました」
「お二人とも私を喰べてしまいたいほど可愛がって」
「青年子女が『資本論』という魔法使いの本に憑かれだした」
「生徒が、あたかも煙のような朦朧さで這入(はい)ってきた」
「この怪物の入学には一方ならず怯えた」
「耳と耳の間が風を通す洞穴になっていて」
「覚えまいと思っていても覚えるほかに手がない」
「目がくらむ。スポーツだ」
「心はしばらくふくらんでいた」
「悟りが息を殺して隠れている」
「悟りが息を殺して隠れている」
「肉体は常に温顔をたたえ」
「肉体は梅花咲くあのやわらかな春風をたたえて」
「肉体は春風をたたえて」
「温顔が頭の中へのりこんできて」
「脳味噌を掻きわけてあぐらをかいてしまう」
「温顔が脳味噌を掻きわけて」
「坊主の学校で」
「坊主の勉強しなければならない」
「坊主の足を洗いたい」
「金輪際坊主の講座へでてこなかった」
「先生は、殺しても尚あきたりぬ血に飢えた憎悪を凝らして、僕を睨んだ」
「京都の隠岐は」
「東京の隠岐ではなく」
「京都の隠岐は古都のぼんぼんに変っていた」
「一管のペンに一生を托して」
「林泉や茶室というものは空中楼閣なのである」
「智積院の屏風ときては、あの前に坐った秀吉が花の中の小猿のように見えた」
「孤独の部屋で蒼ざめた鋼鉄人の物思いに就て考える」
「この工場は僕の胸に食い入り」
「その一生を正視するに堪えない」
「歴史は巨大な生物となって誕生し」
「政治はやむべからざる歩調をもって」
「政治は大海の波のごとくに歩いて行く」
「歴史の独創、又は嗅覚であった」
「歴史的な嗅覚に於てその必要を感じる」
「権謀術数がたとえば悪魔の手段にしても」
「地獄に堕ちて暗黒の曠野(こうや)をさまよう」
「奇妙な呪文に憑かれていた」
「石川島に焼夷弾の雨がふり」
「罹災者達の行進は充満と重量をもつ無心であり」
「敗戦の表情はただの堕落にすぎない」
「堕落の平凡な跫音(あしおと)に気づく」
「打ちよせる波のようなその当然な跫音(あしおと)に気づく」
「虚しい美しさが咲きあふれていた」
「未亡人はすでに新たな面影によって」
「新たな面影によって胸をふくらませている」
「ただ人間へ戻ってきたのだ」
「人間の心は苦難に対して鋼鉄のごとくでは有り得ない」
「他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し」
「自分自身の武士道をあみだす」
「自分自身の天皇をあみだす」
「人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ」
「石油成金の産地でもある」
「最も天皇を冒涜する者が最も天皇を崇拝していた」
「天皇を我が身の便利の道具とし」
「日本歴史のあみだした独創的な作品」
「日本歴史のあみだした独創的な作品」
「土人形のごとくにバタバタ死ぬのが厭でたまらなかった」
「土人形となってバタバタ死んだ」
「義理人情というニセの着物をぬぎさり」
「赤裸々な心になろう」
「この赤裸々な姿を突きとめ見つめる」
「日本は堕落せよと叫んでいる」
「『健全なる道義』から転落し」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「五十銭を三十銭にねぎる美徳だの、諸々のニセの着物をはぎとり」
「裸となり、ともかく人間となって出発し直す」
「ともかく人間となって出発し直す必要がある」
「まず裸となり、とらわれたるタブーをすて」
「真実の悲鳴を賭けねばならぬ」
「堕落すべき時にはまっさかさまに堕ちねばならぬ」
「虚しい義理や約束の上に安眠し」
「社会制度というものに全身を投げかけて」
「堕落者はただ一人曠野(こうや)を歩いて行く」
「堕落者はただ一人曠野(こうや)を歩いて行く」
「孤独という通路は神に通じる道であり」
「孤独という通路は神に通じる道であり」
「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや、とはこの道だ」
「キリストが淫売婦にぬかずくのもこの曠野(こうや)のひとり行く道に対して」
「キリストが淫売婦にぬかずくのもひとり行く道に対してであり」
「この道だけが天国に通じている」
「この道が天国に通じている」
「日本人が誕生したのである」
「社会制度は目のあらい網であり」
「人間は永遠に網にかからぬ魚である」
「人間は常に網からこぼれ堕落し」
「その魂の声を吐くものを文学という」
「反逆自体が協力なのだ」
「反逆自体が愛情なのだ」
「徴用されて機械にからみついていた」
「その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいた」
「物置のようなひん曲った建物があって」
「肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない」
「肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない」
「全部の者と公平に関係を結んだ」
「娘は大きな二つの眼の玉をつけていて」
「妹が猫イラズを飲んだ」
「裏側の人生にいくらか知識はある」
「仕立屋は哲学者のような面持で静かに答える」
「気違いは三十前後で、母親があり、二十五六の女房があった」
「うっとうしい能面のような美しい顔立ちで」
「古風の人形か能面のような美しい顔立ち」
「万巻の読書に疲れたような憂わしげな顔」
「気違いの方は我家のごとくに堂々と侵入してきて」
「白痴の女は音もなく影のごとくに逃げこんできて」
「婆さんの鳥類的な叫びが起り」
「虫の抵抗の動きのような長い反復がある」
「会社員よりも会社員的な順番制度をつくっている」
「内にあっては救済組織であるけれども外に出でてはアルコールの獲得組織で」
「彼等の魂や根性は会社員よりも会社員的であった」
「現実を写すだけならカメラと指が二三本あるだけで沢山ですよ」
「弾丸も飢餓もむしろ太平楽のようにすら思われる時があるほどだった」
「弾丸も飢餓もむしろ太平楽のようにすら思われる」
「底知れぬ退屈を植えつける奇妙な映画」
「蒼ざめた紙のごとく退屈無限の映画がつくられ」
「伊沢の情熱は死んでいた」
「ごめんなさいね、という意味も言ったけれども」
「無数の袋小路をうろつき廻る呟き」
「ごめんなさいね、がどの道に連絡しているのだか」
「白痴の女の一夜を保護するという眼前の義務」
「白痴の意志や感受性」
「人間以外のものが強要されているだけだった」
「白痴の心の素直さ」
「ただあくせくした人間共の思考」
「三ツか四ツの小さな娘をねむらせるように額の髪の毛をなでてやる」
「女を寝床へねせて」
「女はボンヤリ眼をあけて」
「まったく幼い子供の無心さと変るところがない」
「芸術の前ではただ一粒の塵埃でしかないような二百円の給料」
「二百円の給料がどうして骨身にからみつき」
「生存の根底をゆさぶる」
「大声が胸に食いこんでくる」
「泥人形のくずれるように同胞たちがバタバタ倒れ」
「木も建物も何もない平な墓地になってしまう」
「夢の中の世界のような遥かな戯れ」
「生きる希望を根こそぎさらい去る」
「二百円に首をしめられ」
「二十七の青春のあらゆる情熱が漂白されて」
「二百円に首をしめられ」
「その女との生活が二百円に限定され」
「味噌だの米だのみんな二百円の咒文(じゅもん)を負い」
「女が咒文(じゅもん)に憑かれた鬼と化して」
「女がまるで手先のように咒文に憑かれた鬼と化して」
「女がまるで手先のように咒文(じゅもん)に憑かれた鬼と化して」
「胸の灯も芸術も希望の光もみんな消えて」
「胸の灯も芸術も希望の光もみんな消えて」
「生活自体が道ばたの馬糞のように踏みしだかれて」
「生活自体がグチャグチャに踏みしだかれて」
「生活自体が乾きあがって」
「生活自体が風に吹かれて飛びちり」
「生活自体が風に吹かれて飛びちり」
「生命の不安と遊ぶ」
「まるで最も薄い一枚のガラスのように喜怒哀楽の微風にすら反響し」
「喜怒哀楽の微風にすら反響し」
「放心と怯えの皺の間へ人の意志を受け入れ」
「二百円の悪霊すらもこの魂には宿ることができない」
「この女はまるで俺の人形のようではないか」
「家鴨(あひる)のような声をだして喚いている」
「寒気が彼の全身を石のようにかたまらせていた」
「一つの家に女の肉体がふえた」
「精神に新たな芽生えの唯一本の穂先すら見出すことができない」
「記憶の最もどん底の下積の底」
「白痴の顔がころがっているだけだった」
「白痴の顔がころがっている」
「彼には忘れ得ぬ二つの白痴の顔があった」
「はからざる随所に二つの顔をふと思いだし」
「彼の一切の思念が凍り」
「一瞬の逆上が絶望的に凍りついている」
「ただひときれの考えすらもない」
「虫のごとき倦まざる反応の蠢動(しゅんどう)を起す肉体」
「焼夷弾と爆弾では凄みにおいて青大将と蝮(まむし)ぐらいの相違があり」
「爆弾はザアという雨降りの音のようなただ一本の棒をひき」
「爆弾という奴は雨降りの音のようなただ一本の棒をひき」
「爆発の足が近づく時の絶望的な恐怖」
「よそ見をしている怪物に大きな斧で殴りつけられるようなものだ」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「全くこいつは言葉も呼吸も思念もとまる」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「死の窓へひらかれた恐怖と苦悶」
「死の窓へひらかれた恐怖と苦悶」
「女の顔と全身にただ死の窓へひらかれた恐怖と苦悶が凝りついていた」
「苦悶は動き」
「苦悶はもがき」
「苦悶が一滴の涙を落している」
「もし犬の眼が涙を流すなら犬が笑うと同様に醜怪きわまる」
「彼等の心臓は波のような動悸をうち」
「言葉は失われ異様な目を大きく見開いているだけだ」
「全身に生きているのは目だけである」
「不安や恐怖の劇的な表情を刻んでいる」
「子供が大人よりも埋智的にすら見える」
「白痴の苦悶は、子供達の大きな目とは似ても似つかぬものであった」
「人間のものではなく虫のものですらもなく醜悪な一つの動きがあるのみ」
「やや似たものがあるとすれば芋虫が五尺の長さにふくれあがってもがいている動きぐらいのものだろう」
「人間が焼鳥と同じようにあっちこっちに死んでいる」
「まったく焼鳥と同じことだ」
「犬と並んで同じように焼かれている死体は全く犬死で」
「人間が犬のごとくに死んでいるのではなく」
「ちょうど一皿の焼鳥のように盛られ並べられている」
「戦争がたぶん女を殺すだろう」
「ラジオはがんがんがなりたてており、編隊の先頭は伊豆南端を通過した」
「家鴨(あひる)によく似た屋根裏の娘がうろうろしていた」
「ガラガラとガードの上を貨物列車が駆け去る時のような焼夷弾の落下音」
「岩を洗う怒濤の無限の音のような音が無限に連続している」
「高射砲の無数の破片の落下の音のような音が無限に連続している」
「府道を流れている避難民達」
「静寂の厚みがとっぷり四周をつつんでいる」
「孤独の厚みがとっぷり四周をつつんでいる」
「音響が頭上めがけて落ちてきた」
「人間と荷物の悲鳴の重りあった流れにすぎず」
「人間を抱きしめており」
「その抱きしめている人間に、無限の誇りをもつ」
「国道が丘を切りひらいて通っている」
「群集は国道を流れていた」
「声は一様につぶれ人間の声のようではなかった」
「鼾(いびき)は豚の鳴声に似ていた」
「まったくこの女自体が豚そのものだ」
「肉体の行為に耽りながら」
「戦争の破壊の巨大な愛情がすべてを裁いてくれる」
「俺と俺の隣に並んだ豚の背中」
「ギリシャにもローマにも近代にも似ていない、ただ人間に似ている」
「彼は昔、心中したことがあった」
「高い恋愛はもっと精神的なものだ」
「女中共は半可通の粋好みだから悪評は極上品で」
「土の中からぬきたてのゴボウみたいだ」
「頭をペコリとも下げないから土だらけのゴボウのようだ」
「富子の母の旦那からお金を貰わせて」
「八月十五日正午ラジオの放送が君が代で終る」
「進駐軍の味覚を相手に料理の腕をふるって」
「あちら名の気のきいた店名」
「気のきいた店名なぞ三ツ四ツあれこれ胸にたくわえて」
「気のきいた店名なぞ胸にたくわえていたのを投げだして」
「麻雀とか碁などで昼を送り、夜は虎になって戻ってくる」
「本当にそうだって、本当にそうでは困る」
「冷めたい宝石のような美しさがたたえられている」
「悲しくなるような美しさで」
「なぜ客が減ったか法外な値段の秘密、みんなかぎだした」
「宿六の守銭奴が乗りうつり」
「金銭の悪鬼と化し」
「金のためには喉から手を出しかねない」
「この飲んだくれとカケオチしようか」
「この放浪者よりは自信がある」
「一思いに、という気持ちがメラメラ燃え立って」
「惚れたハレたなんて、そりゃ序曲というもんで」
「第二楽章から先はもう恋愛は絶対に存在せんです」
「恋愛なんてどうせ序曲だけでしょうけどね」
「胸元へ短刀を突きつけられたような緊張が好き」
「何度とりかえても亭主は亭主にすぎない」
「女のことは金談にからまる景品にすぎない」
「あなたの専売特許みてえなもんじゃないか」
「大学者でも子供みたいに駄々をこねるんだな」
「精神も物質です」
「私はでて行きます、という物質」
「石炭みたいに胸の中の外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「胸の中の地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「胸の中のどういう地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「心理をほじくれば矛盾不可決、迷路にきまってるよ」
「心理から行動へつながる道はその迷路から出てきやしない」
「あなたも今日は子供みたいだなア」
「一つの気分に親しんでいる」
「精神的にも一介の放浪者にすぎんです」
「資本を飲むから大闇ができず」
「金々々と云って多忙に働きかつ飲みかつ口説いている」
「最上先生の思想が地平すれすれに這い廻るにしても」
「東奔西走、極めて多忙にとび廻り飲み廻り口説き廻っている」
「蛇とイナゴの方からウナギやエビへ応用をきかせるわけにはいかねえだろう」
「蛇とイナゴの方からウナギやエビへ応用をきかせるわけにはいかねえだろう」
「女房が蛆(うじ)のごとくに卑しく見える」
「この店を飲みほすと思うと」
「浮気は宗教であるという思想についてですな」
「すなわち浮気は宗教であるですよ」
「男ならば女を救う、女ならば男を救う、これすなわち菩薩です」
「熱海市会は百万円のタメ息をもらす」
「島民はもっぱら化け物のような芋を食い」
「自殺者のメッカ」
「アベックは今も同じところにうごめいている」
「私は連夜徹夜しているから番犬のようなものだ」
「どこかバルザックの武者ぶりに似ている」
「悠々風のごとくに去来していた」
「人生は水のごとくに無色透明なものがあるだけで」
「人間は本来善悪の混血児であり」
「悪に対するブレーキ」
「人種が違うのである」
「完全に生活圏を出外れて一種の痴呆状態であり」
「驚ろいた事も驚ろいたし、極りが悪るい事も悪るいし」
「牡蠣先生は掛念の体に見える」
「謀叛の連判状へでも名を書き入れますと云う顔付をする」
「トチメンボーを振り廻している」
「主人は書斎の中で神聖な詩人になりすましている」
「禅坊主が大燈国師の遺誡を読むような声を出して」
「トチメンボーの亡魂を退治(たいじ)られたところで」
「行徳の俎を無理にねじ伏せる」
「行徳の俎を遠く後に見捨てた気で」
「暮、戦死、老衰、無常迅速などと云う奴が頭の中をぐるぐる馳け廻る」
「水の面(おもて)をすかして見ました」
「憐れな声が糸のように浮いて来る」
「気の狭い女の事だから何をするかも知れない」
「石鹸で磨き上げた皮膚がぴかついて」
「有形無形の両方面から輝やいて見える」
「胃の中からげーと云う者が吶喊して出てくる」
「ゲーが執念深く妨害をする」
「彼等は糸瓜(へちま)のごとく風に吹かれて」
「勝とう勝とうの心は談笑中にもほのめいて」
「木彫の猫のように眼も動かさない」
「輪郭の柔らかな瓜実顔」
「真白な頬の底に温かい血の色が差して」
「その真黒な眸(ひとみ)の奥に自分の姿が浮かんでいる」
「静かな水が動いて写る影を乱したように流れ出した」
「赤いまんまでのっと落ちて行った」
「唐紅の天道がのそりと上って来た」
「襖の画は蕪村の筆である」
「冷たい刃が一度に暗い部屋で光った」
「手拭に遠慮をするように、廻った」
「その頃でも恋はあった」
「鼻から火の柱のような息を二本出して」
「髪は吹流しのように闇の中に尾を曳いた」
「波の底から焼火箸(やけひばし)のような太陽が出る」
「太陽がまた波の底に沈んで行く」
「蒼い波が蘇枋の色に湧き返る」
「乗合はたくさんいた」
「いくら足を縮めても近づいて来る」
「黒雲に足が生えて青草を踏み分けるような勢い」
「手が蒟蒻のように弱って」
「わが心の水のように流れ去る」
「苦い顔をしたのは池辺三山君であった」
「専門家の眼に整って映るとは無論思わない」
「ふと十七字を並べて見たり」
「起承転結の四句ぐらい組み合せないとも限らない」
「歓楽を嫉(ねた)む実生活の鬼の影が風流に纏(まつわ)る」
「長閑(のど)かな春がその間から湧(わ)いて出る」
「句と詩は天来(てんらい)の彩紋(さいもん)である」
「その興を捉えて横に咬み竪に砕いて」
「読者の胸に伝われば満足なのである」
「風流を盛るべき器(うつわ)が無作法(ぶさほう)な十七字」
「風流を盛るべき器(うつわ)が無作法(ぶさほう)な十七字」
「風流を盛るべき器(うつわ)が佶屈(きっくつ)な漢字」
「一粒の飯さえ容赦無く逆さまに流れ出た」
「この時の余はほとんど人間らしい複雑な命を有して生きてはいなかった」
「意識の内容はただ一色の悶に塗抹されて」
「意識の内容は臍上方(さいじょうほう)三寸(さんずん)の辺(あたり)を行きつ戻りつする」
「胃の腑が不規則な大波を描くような異(い)な心持」
「日がまだ山の下に隠れない午過」
「吐血はこの吉報を逆襲すべく突如として起った」
「生から死に行く径路を最も自然に感じ得るだろう」
「余の血の中には先祖の迷信が今でも多量に流れている」
「文明の肉が社会の鋭どき鞭の下に萎縮する」
「文明の肉が社会の鋭どき鞭(むち)の下に萎縮する」
「虎烈剌を畏れて虎烈剌に罹らぬ人のごとく、神に祈って神に棄てられた子のごとく」
「風船の皮がたちまちしゅっという音と共に収縮したと一般の吐血」
「その腹は、恐るべき波を上下に描かなければやまない」
「この相撲に等しいほどの緊張に甘んじて」
「自然は公平で冷酷な敵である」
「社会は不正で人情のある敵である」
「血を吐いた余は土俵の上に仆れた(たおれた)相撲と同じ」
「世界に暖かな風が吹いた」
「弱い光りは八畳の室を射た」
「そうしてその雛は必要のあるたびに無言のまま必ず動いた」
「白い着物はすぐ顔の傍へ来た」
「腕は針の痕で埋まっていた」
「死んだ時はいずれも苦しみ抜いた病の影を肉の上に刻んでいた」
「余のそれらにはいつの間にか銀の筋が疎らに交っていた」
「白髪に強いられて老の敷居を跨いでしまおうか」
「白髪を隠して、なお若い街巷(ちまた)に徘徊(はいかい)しようか」
「憂鬱な微笑を浮かべ、静かにこの話を繰り返すであろう」
「意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりました」
「ただ目の前に稲妻に似たものを感じた」
「蛙の跳ねるように飛びかかる」
「安楽椅子にすわっているところはほとんど幸福そのものです」
「一度も罷業という字に出会いません」
「ゲエルは手近いテエブルの上にあったサンドウィッチの皿を勧めながら」
「純金の匙をおもちゃにしています」
「言わばロックを支配している星を」
「古い薪に新しい炎を加えるだけであろう」
「聖徒の数へはいることもできなかったかもしれません」
「本といふよりも寧ろ世紀末それ自身だつた」
「薄暗がりと戦ひながら」
「本は影の中に沈みはじめた」
「彼は医者の目を避ける為に硝子窓の外を眺めてゐた」
「人生を見渡しても何も特に欲しいものはなかつた」
「雨上りの風は彼の感情を吹きちぎつた」
「彼は薔薇の葉の匂のする懐疑主義を枕にしながら」
「見すぼらしい町々の上へ反語や微笑を落しながら」
「殊に彼を動かしたのは十二三歳の子供の死骸だった」
「同時にまた彼の七八年前には色彩を知らなかったのを発見した」
「彼はこう天使と問答した」
「通り越しさえすれば死にはいってしまうのに違いなかった」
「あらゆる善悪の彼岸に悠々と立っている」
「それではもう警察へお願いするより手がねえぜ」
「酒さかなが少しずつ流れて来るような道」
「大谷さんが戦闘帽などかぶって舞い込んで来て」
「売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んで」
「売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んで」
「大谷さんの落ちつく先を見とどけて」
「客から客へ滑り歩いてお酌して廻って」
「谷川が岩を噛みつつ流れ出ていた」
「羊歯(しだ)類は滝のとどろきにしじゅうぶるぶるとそよいでいる」
「崖から剥ぎ取られたようにすっと落ちた」
「上半身が水面から躍りあがった」
「年中そこへ寝起している」
「滝は水でない、雲なのだ」
「秋風がいたくスワの赤い頬を吹きさらしている」
「枯葉が折々みぞれのように二人のからだへ降りかかった」
「父親は酒くさいいきをしてかえった」
「ついであのくさい呼吸を聞いた」
「吹雪!それがどっと顔をぶった」
「狂い唸る冬木立」
「鮒はくるくると木の葉のように吸いこまれた」
「満月が太郎のすぐ額のうえに浮んでいた」
「湯流山は氷のかけらが溶けかけているような形で」
「惣助は盥(たらい)のまわりをはげしくうろついて歩き」
「膝頭を打とうとしたが臍のあたりを打って」
「林檎の果実が手毬くらいに大きく成った」
「林檎の果実が珊瑚くらいに赤く成った」
「林檎の果実が桐の実みたいに鈴成りに成った」
「果実の肉が歯をあてたとたん割れ冷い水がほとばしり出て鼻から頬までびしょ濡れにしてしまうほどであった」
「千羽の鶴は元旦の青空の中をゆったりと泳ぎまわり」
「梛木川がひとつき続いた雨のために怒りだした」
「水源の濁り水は六本の支流を合せてたちまち太り」
「水源の濁り水は身を躍らせて」
「水源の濁り水は山を韋駄天ばしりに駈け下り」
「水源の濁り水は家々の土台石を舐め」
「満月の輪廓は少しにじんでいた」
「価のないものこそ貴いのだ」
「次郎兵衛が馬のように暴れまわってくれたなら」
「水気をふくんだ重たい風が地を這いまわる」
「水気をふくんだ重たい風が地を這いまわる」
「大粒の水滴が天からぽたぽたこぼれ落ち」
「眼はだんだんと死魚の眼のように冷くかすみ」
「腕をピストンのようにまっすぐに突きだして殴った」
「腕が螺旋のようにきりきり食いいる」
「枯木の三角の印は椀くらいの深さに丸くくぼんだ」
「廻りめぐっている水車の十六枚の板の舌」
「丈六もまた酒によく似て」
「数千の火の玉小僧が列をなして畳屋の屋根のうえで舞い狂い」
「火の粉が松の花粉のように噴出して」
「黒煙が海坊主のようにのっそりあらわれ」
「次郎兵衛のその有様は神様のように恐ろしかった」
「嘘の花はこの黄村の吝嗇から芽生えた」
「嘘の花はこの黄村の吝嗇から芽生えた」
「苦痛に堪えかねたような大げさな唸り声」
「甘ったれた精神」
「狆の白い小さいからだがくるくると独楽のように廻って」
「ピストルを自分の耳にぶっ放したい発作とよく似た発作」
「末っ子は家鴨のように三度ゆるく空気を掻くようにうごかして」
「細長い両脚で空気を掻くようにうごかして」
「泳ぎの姿を気にしすぎて子供を捜しあるくのがおろそかになり」
「嘘の花をひらかせた」
「いよいよ嘘のかたまりになった」
「花弁は朝顔に似て小さく」
「花弁は豌豆(えんどう)に似て大きく」
「花弁は赤きに似て白く」
「あたりをはばかるような低い声」
「すべて真実の黄金に化していた」
「嘘の最後っ屁の我慢できぬ悪臭をかいだ」
「嘘の最後っ屁の我慢できぬ悪臭をかいだような気がした」
「野蛮なリズムのように感ぜられる太鼓の音」
「嘘は犯罪から発散する音無しの屁だ」
「現実を少しでも涼しくしようとして」
「嘘は酒とおなじようにだんだんと適量がふえて来る」
「次第次第に濃い嘘を吐いていって、切磋琢磨され、ようやく真実の光を放つ」
「真実の光」
「次第次第に濃い嘘を吐いていって、切磋琢磨され、ようやく真実の光を放つ」
「次第次第に濃い嘘を吐いていってようやく真実の光を放つ」
「皮膚にべっとりくっついて」
「これは滑稽の頂点である」
「嘘のない生活という言葉からしてすでに嘘であった」
「三郎は風のように生きる」
「これこそ嘘の地獄の奥山だ」
「嘘の上塗りをして行く」
「三人のこらえにこらえた酔いが一時に爆発した」
「有頂天こそ嘘の結晶だ」
「嘘の火焔」
「金銭も木葉(このは)のごとく軽い」
「自分の不活溌のどこかにそんな匂いを嗅いだ」
「動き出すことの禁ぜられた沼のように淀んだところ」
「動き出すことの禁ぜられた沼のように淀んだところ」
「沼の底から湧いて来る沼気(メタン)のようなやつがいる。いやな妄想がそれだ。」
「沼の底から湧いて来る沼気(メタン)のようなやつ」
「妄想が不意に頭を擡(もた)げる」
「草の葉のように揺れているもの」
「秋風に吹かれてさわさわ揺れている草自身の感覚というようなものを感じる」
「冷い白い肌に電燈の像を宿している可愛い水差し」
「自分の顔がまるで知らない人の顔のように見えて」
「醜悪な伎楽の腫れ面という面そっくりに見えて来たりする」
「鏡の中の顔が消えてあぶり出しのようにまた現われたりする」
「鏡のなかの伎楽の面を恐れながら」
「変に不思議なところへ運ばれて来たような気持ち」
「淀んだ気持と悪く絡まった」
「淀んだ気持と悪く絡まった」
「お化けのような顔になっているのじゃないかな」
「濡れたタオルを繰り返した」
「自分の口は喋っているのだった」
「はじめは振っているがしまいには器に振られているような」
「お前たちは並んでアラビア兵のようだ」
「バグダッドの祭のようだ」
「宙を踏んでいるように頼りない気持であった」
「自分が歩いてゆく」
「こちらの自分はその自分を眺めている」
「地面はなにか玻璃を張ったような透明で」
「湯気が屏風のように立騰っている」
「富士も丹沢山も一様の影絵を茜の空に写す」
「摺鉢を伏せたような形」
「頭を出している赤い屋根」
「眼に立ってもくもくして来た緑の群落のパノラマに向き合っていた」
「どこか他国を歩いている感じだ」
「その日の獲物だった近道を通うようになった」
「自分は高みの舞台で一人滑稽な芸当を一生懸命やっているように見える」
「鋲の打ってない靴の底はずるずる赤土の上を滑りはじめた」
「石垣の鼻のザラザラした肌で靴は自然に止った」
「なるほどこんなにして滑って来るのだと思った」
「泳ぎ出して行くような気持」
「その窮屈がオークワードになります」
「車の響きが音楽に聴こえる」
「車の響きが彼等の凱歌のように聞える」
「——と云えば話になってしまいますが」
「あの海に実感を持たねばならぬ」
「その音が例の音楽をやるのです」
「機を織るような一定のリズムを聴きはじめた」
「衣ずれのような可愛いリズムに聴き入りました」
「小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました」
「心から遠退いていた故郷と膝をつきあわせた」
「それを『声がわり』だと云って笑ったりしました」
「『チョッ。ぼろ船の底』」
「樫の木の花が重い匂いをみなぎらせていました」
「飾燈(かざりとう)のような美しい花が咲いていました」
「私の美に対する情熱が娘に対する情熱と胎を共にした双生児だった」
「私の思い出を曇らせる雲翳(うんえい)だった」
「あたかも幸福そのものが運ばれて其処にあるのだと思わせる」
「Hysterica Passio ——そう云って私はとうとう笑い出しました」
「ごんごん胡麻は老婆の蓬髪のようになってしまった」
「欅(けやき)が風にかさかさ身を震わす」
「屏風のように立ち並んだ樫の木」
「金魚の仔でもつまむようにしてそれを土管の口へ持って行くのである」
「一塊の彩りは、凝視めずにはいられなかった」
「一塊の彩りは、凝視めずにはいられなかった」
「住むべきところをなくした魂」
「魂は外界へ逃れようと焦慮(あせ)っていた」
「盲人のようにそとの風景を凝視(みつ)める」
「聾者のような耳を澄ます」
「墨汁のような悔恨やいらだたしさが拡がってゆく」
「悔恨やいらだたしさが拡がってゆく」
「悲しげに、遠い地平へ落ちてゆく入日を眺めているかのように見えた」
「埃及(エジプト)のピラミッドのような巨大な悲しみを浮かべている」
「どんな小さな石粒も巨大な悲しみを浮かべている」
「蒼桐の幽霊のような影が写っていた」
「もやしのように蒼白い堯(たかし)の触手」
「もやしのように蒼白い堯(たかし)の触手」
「そこに滲み込んだ不思議な影の痕を撫でる」
「木造家屋に滲み込んだ影の痕を撫でる」
「触手は不思議な影の痕を撫でる」
「樫の並樹は鋼鉄のような弾性で撓(し)ない踊りながら」
「樫の並樹は撓(し)ない踊りながら」
「枯葉が骸骨の踊りを鳴らした」
「意志を喪(うしな)った風景のなかを死んでいった」
「たくさんの虫が悲しんだり泣いたりしていた」
「一匹の死にかけている虫」
「現前する意志を喪(うしな)った風景が浮かびあがる」
「圧しつけるような暗い建築の陰影」
「疎な街燈の透視図」
「時どき過ぎる水族館のような電車」
「それは空気のなかでのように見えた」
「思索や行為は佯(いつわ)りの響をたてはじめ」
「彼の思索や行為は凝固した」
「近代科学の使徒が堯にそれを告げた」
「日光が葉をこぼれている」
「鶯がなにか堅いチョッキでも着たような恰好をしている」
「虻(あぶ)が茫漠とした堯の過去へ飛び去った」
「堯(たかし)の虻(あぶ)は見つけた」
「エーテルのように風景に広がっている虚無」
「幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
「その幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
「鉛筆で光らせたように凍てはじめた」
「陶器のように白い皮膚」
「漣漪(さざなみ)のように起こっては消える微笑を眺めながら」
「灰を落としたストーヴのように顔には一時鮮かな血がのぼった」
「ものを言うたび口から蛙が跳び出すグリムお伽噺の娘のように」
「物憂い冬の蠅が幾匹も舞っていた」
「病院の廊下のように長く続いた夜だった」
「生活は死のような空気のなかで停止していた」
「思想は書棚を埋める壁土にしか過ぎなかった」
「屋根瓦には月光のような霜が置いている」
「冬の日が窓のそとのまのあたりを幻燈のように写し出している」
「白い冬の面紗(ヴェイル)を破って」
「その日赤いものを吐いた」
「匕首(あいくち)のような悲しみが彼に触れた」
「悲しみが彼に触れた」
「水準器になってしまったのを感じた」
「浮雲が次から次へ美しく燃えていった」
「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
「とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出す」
「お日さまの光がとうもろこしの影法師を投げ出す」
「お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせる」
「コップで一万べんはかっても」
「あまがえるはすきとおる位青くなって」
「よくもひとをなぐったな」
「とのさまがえるは三十がえる力ある」
「十一疋のあまがえるをもじゃもじゃ堅(かた)めて」
「あまがえるはすきとおる位青くなって、平伏いたしました」
「あまがえるなんというものは人のいいのいいものですから」
「桃の木の影法師を三千寸も遠くまで投げ出し」
「お日さまの光は影法師を遠くまで投げ出し」
「空はまっ青にひかりました」
「みんな泣き顔になってうろうろうろうろやりました」
「飴色の夕日にまっ青にすきとおって泣いている」
「けむりのようなかびの木」
「花のたねは雨のようにこぼれていました」
「あまがえるはすきとおってまっ青になって」
「ずうっと遠くの天の隅のあたりで、三角になってくるりくるりとうごいているように見えた」
「汗がからだ中チクチクチクチク出て」
「からだはまるでへたへた風のようになり」
「世界はほとんどまっくらに見えました」
「その影法師は地面に美しく落ちていました」
「とのさまがえるはチクチク汗を流して」
「あたりがみんなくらくらして、茶色に見えてしまった」
「畑の中や花壇のかげでさらさらさらさら云う声を聞きませんか」
「星座の図の白くけぶった銀河帯のようなところ」
「どぎまぎしてまっ赤になってしまい」
「まっ赤になってうなずきました」
「白い点々のある美しい写真」
「太陽や地球もそのなかに浮(うか)んでいるのです」
「水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集まって見え」
「ジョバンニはどしどし学校の門を出て来ました」
「ジョバンニは活字をだんだんひろいました」
「しっぽがまるで箒のようだ」
「口笛を吹いているようなさびしい口付き」
「ばけもののように長くぼんやり後ろへ引いていたかげぼうし」
「足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へまわって来る」
「ぼくは立派な機関車だ」
「こんどはぼくの影法師はコムパスだ」
「之を聞くと顔色を変えた」
「南子と醜関係があった」
「牝豚牡豚とは南子と宋朝とを指している」
「事を謀った」
「夫人は狂気のように繰り返すばかりである」
「淫婦刺殺という義挙」
「臆病な莫迦者の裏切」
「故国に片足突っ込んだ儘(まま)」
「ひねくれた中年の苦労人に成上っていた」
「彼は棄鉢(すてばち)な情熱の吐け口を闘鶏戯に見出していた」
「空費された己の過去に対する補償であった」
「空費された己の過去に対する補償であった」
「過去への復讐であった」
「不遇時代に惨めに屈していた自尊心」
「自尊心は今や傲然と膨れ返らねばならぬ」
「あの姦婦を捕えて」
「都下の美女を漁っては後宮に納れた」
「色を作した太子疾が父の居間へ闖入する」
「色蒼ざめて戦くばかり」
「顔色がさっと紙のように白くなる」
「良夫の頸はがっくり前に落ち、鮮血がさっと迸る」
「真蒼な顔をした儘、黙って息子のすることを見ていた」
「狂人の如く地団駄を踏んで喚いている彼の男の声」
「不快さを追払おうと」
「前途の暗いものであることだけは確か」
「暗い予言の実現する前に」
「羽毛は金の如く」
「距(けづめ)は鉄のごとく」
「思わず鶏の死骸を取り落し、殆ど倒れようとした」
「一夜を共に過して」
「真黒な天が盤石の重さで押しつけている」
「獣のように突き出た口をしている」
「前に連れてこさせると、叔孫はアッと声に出した」
「笑うとひどく滑稽な愛嬌に富んだものに見える」
「病人が顔色を変える」
「病人が顔色を変える」
「勝手な真似を始めたのだなと歯咬みをしながら」
「輝きの無い、いやに白っぽい光である」
「胸の真上に蔽(おお)いかぶさって来る真黒な重み」
「豎牛の顔が、真黒な原始の混沌に根を生やした一個の物のように思われる」
「世界のきびしい悪意といったようなもの」
「不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」
「不吉な塊が私の心を圧えつけていた」
「酒を毎日飲んでいると宿酔(ふつかよい)に相当した時期がやって来る」
「背を焼くような借金などがいけないのではない」
「いけないのはその不吉な塊だ」
「私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけてゆく」
「想像の絵具を塗りつけてゆく」
「詩美と言ったような味覚が漂って来る」
「無気力な私の触角にむしろ媚びて来るもの」
「私の触角に媚びて来る」
「書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように見える」
「飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている」
「電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる」
「眼の中へ刺し込んでくる」
「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
「不吉な塊が弛んで来た」
「私は往来を軽やかな昂奮に弾んで」
「私の心を充たしていた幸福な感情」
「幸福な感情は逃げていった」
「香水の壜にも煙管にも私の心はのしかかってはゆかなかった」
「憂鬱が立て罩(こ)めて来る」
「奇怪な幻想的な城が赤くなったり青くなったりした」
「軽く跳りあがる心を制しながら」
「城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた」
「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収して」
「ひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収して」
「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収してしまって」
「黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た」
「私の心が嫌悪にかわるのを見た」
「演奏者の白い十本の指が鍵盤に挑みかかっていた」
「私の耳は会場の空気に触れたりした」
「言いようもないはかなさが私の胸に沁みて来た」
「服地の匂いが私の寂寥を打った」
「たちまち萎縮してあえなくその場に仆れてしまった」
「児戯に類した空想もながく生き延びる」
「私の古い空想はその場で壊れてしまった」
「灼熱した生殖の幻覚させる後光」
「彼らはそこで美しい結婚をするのだ」
「光彩を流している」
「白い日光をさ青(お)煙らせている」
「俺の心は渇いている」