ex:a2187

「聾者のような耳を澄ます」

「聾者のような耳を澄ます」

Page Type Example
Example ID a2187
Author 梶井基次郎
Piece 「冬の日」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 298

Text

堯はこの頃生きる熱意をまるで感じなくなっていた。一日一日が彼を引き摺(ず)っていた。そして裡に住むべきところをなくした魂は、常に外界へ逃れよう逃れようと焦慮(あせ)っていた。——昼は部屋の窓を展いて盲人のようにそとの風景を凝視める。夜は屋の外の物音や鉄瓶の音に聾者のような耳を澄ます。

Context Focus Standard Context
聾者 自分 耳を澄ます

  • 死にゆく自分を自覚し、感覚を失っている様を描いている。

Rhetoric
Semantics

Source Relation Target Pattern
1 聾者 = 自分 自分=健常者

Grammar

Construction AのようなB
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A の[ような] B の-「ようだ」「ごとし」で受ける場合
2 A [の]ような B 様-類似-連体形

Pragmatics

Category Effect
縁語・縁装法 (-) 前文の「盲人」と同種の表現。
心理描写 (psychological-description) 「聾者」という定義的に視覚を失っている主体を「耳を澄ます」という動詞の主語に取ることにより、不可能なこと実行したいという願望を表現している。
人物描写 (description of a character) 前文の盲人の比喩とともに、健常体であるにもかかわらず、意識は外界に向いていても何等の情報も取得できないとすることで、気力を喪失した発話者の姿をまざまざと描く。
転用語法 (enallage) 聴力を前提とする「耳を澄ます」という動詞の主語に、聴力をもたない「聾者」を置いている。

最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)