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「心から遠退いていた故郷と膝をつきあわせた」

「心から遠退いていた故郷と膝をつきあわせた」

Page Type Example
Example ID a2166
Author 梶井基次郎
Piece 「橡の花」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 241

Text

然し私は小さいきれぎれの言葉を聴きました。そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。……心から遠退いていた故郷と、然も思いもかけなかったそんな深夜、ひたひたと膝をつきあわせた感じでした。

Context Focus Standard Context
故郷と ひたひたと膝をつきあわせた (会って話をした)

  • 語り手は文字を書いているところである。先行文脈に「その前晩私はやはり憂鬱に苦しめられていました。びしょびしょと雨が降っていました。そしてその音が例の音楽をやるのです。本を読む気もしませんでしたので私はいたずら書きをしていました。その Waste という字は書き易い字であるのか――筆のいたずらに直ぐ書く字がありますね――その字の一つなのです。私はそれを無暗(むやみ)にたくさん書いていました。そのうちに私の耳はそのなかから機(はた)を織るような一定のリズムを聴きはじめたのです。手の調子がきまって来たためです。」とある。

Rhetoric
Semantics
Grammar

Construction A感じでした
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A 感じ[でした] 感(かん)
2 A [感じ]でし[た] です-断定(丁寧)-連用形
3 A [感じでし]た た-過去-終止形

Pragmatics

Category Effect
擬人法 (personification) 故郷や家族の記憶に、あたかも面と向かって相対することができる相手であるかのような実在性と人格を感じさせる。
声喩・オノマトペ (onomatoeia) 「ひたひたと」という修飾により、膝同士が隙間なくしっかりと触れ合っている様子を想起させる。
心理描写 (psychological-description) 「ひたひたと」という修飾により、膝同士が隙間なくしっかりと触れ合っている様子を想起させ、疎遠になっていた故郷や家族の記憶が親近感を伴ってまざまざと思い起こされた様子を描いている。文字を書く音が本当に家人の声のような気がするという心情を表している。

最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)