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先ほどの文書にリンクしている文書のリストです。
「麦藁帽子を冠らせたら頂上で踊を踊りそうなビリケン頭」
「ビリケン頭に能く実が入っていて」
「一分苅ではない一分生えの髪に地が透いて見えた」
「発達の好い丸々と肥(ふと)った豚のような濶(ひろ)い肩」
「首を濶(ひろ)い肩の上にすげ込んだようにして」
「風の柳のように室へ入り込んだ大噐氏」
「あの風吹烏(かざふきがらす)から聞いておいでなさったかい」
「庭の樹々は皆雨に悩んでいた」
「瓦葦(しのぶぐさ)が、あやまった、あやまったというように叩頭(おじぎ)している」
「簷(のき)の端に生えている瓦葦(しのぶぐさ)が叩頭している」
「そのザアッという音のほかに、また別にザアッという音が聞えるようだ」
「時々風の工合でザアッという大雨の音が聞える」
「太古から尽未来際まで大きな河の流が流れ通しているように雨は降り通していて」
「常住不断の雨が降り通している中に自分が生涯が挿まれているものででもあるように降っている」
「渓(たに)が膨れて」
「雨が甚(ひど)くなりまして渓(たに)が膨れてまいりました」
「渓川が怒る」
「提灯の火は憐れに小さな威光を弱々と振った」
「提灯の火は威光を弱々と振った」
「雨の音は例の如くザアッとしている」
「ただもう天地はザーッと、黒漆のように黒い闇の中に音を立てている」
「天地は、黒漆(こくしつ)のように黒い闇の中に音を立てている」
「喉元過ぎて怖いことが糞になった_」
「まるで四足獣が三足で歩くような体(てい)になって歩いた」
「石の地蔵のように身じろぎもしないで、ポカンと立っていて」
「若僧はやがてガタガタいう音をさせた」
「チッチッという音がすると、パッと火が現われて」
「チッチッという音がすると、パッと火が現われて」
「死せるが如く枯坐(こざ)していた老僧」
「老僧は着色の塑像の如くで」
「銀のような髪が五分ばかり生えて」
「細長い輪郭の正しい顔の七十位の痩せ枯(から)びた人」
「若僧は飛ぶが如くに行ってしまった」
「真の已達(いたつ)の境界には死生の間にすら関所がなくなっている」
「驚くことは何もないのだが、大噐氏はまた驚いた」
「三時少し過ぎているから、三時少し過ぎているのだ」
「秒針はチ、チ、チ、チと音を立てた」
「戸外の雨の音はザアッと続いていた」
「眼が見ている」
「秒針の動きは止まりはしなかった、確実な歩調で動いていた」
「橋流れて水流れず、と口の中で扱い」
「橋流れて水流れず、と口の中で扱い、胸の中で咬んでいると」
「橋は心細く架渡されている」
「人々が蟻ほどに小さく見えている」
「舫中の人などは胡麻半粒ほどである」
「庭は一隅の梧桐の繁みから次第に暮れて来て」
「と賤(しず)の苧環(おだまき)繰り返して」
「いわゆる『勉学の佳趣』に浸り得る」
「蝙蝠が得たり顔に飛んでいる」
「薄白い雲が高い巌壁をも絵心に蝕んで」
「親切な雨が降る度に訪問するのであろう」
「豆が泣きそうな姿をして立っていたり」
「雲の峰は風に吹き崩されて」
「その余念のない顔付はおだやかな波を額に湛えて」
「その余念のない顔付はおだやかな波を額に湛えて」
「主人の面からは実に幸福が溢るるように見えた」
「ちょっと細君の心の味が見えていた」
「はや不快の雲は名残無く吹き掃われて」
「その眼は晴やかに澄んで見えた」
「主人はその心の傾きを一転した」
「ごくごく静穏な合の手を弾いている」
「往時(むかし)の感情(おもい)の遺した余影(かげ)が酒の上に時々浮ぶ」
「感情(おもい)の遺した余影(かげ)が太郎坊の湛える酒の上に時々浮ぶ」
「云わば恋の創痕(きずあと)の痂(かさぶた)が時節到来して脱(と)れたのだ」
「云わば恋の創痕(きずあと)の痂(かさぶた)が時節到来して脱(と)れたのだ」
「心の中にも他の学生にはまだ出来ておらぬ細かい襞襀(ひだ)が出来ている」
「その男は鶴の如くに痩せた病躯を運んだ」
「名を知らぬ禽(とり)が意味の分らぬ歌を投げ落したりした」
「薄白い雲が瞬く間に峯巒(ほうらん)を蝕み、巌を蝕み、松を蝕み」
「親切な雨が降る度に訪問するのであろう」
「今もその訪問に接して感謝の嬉し涙を溢らせている」
「大噐晩成先生などという諢名(あだな)」
「東京の塵埃(じんあい)を背後(うしろ)にした」
「両岸の山は或時は右が遠ざかったり左が遠ざかったり」
「両岸の山は右が迫って来たり左が迫って来たり」
「沈黙を続けていると、ヒーッ、頭の上から禽(とり)が意味の分らぬ歌を投げ落した」
「サーッというやや寒い風が下して来た」
「ほん物の雨もはらはらと遣って来た」
「ザアッという本降りになって」
「トットットッと走り着いて」
「玉蜀黍(とうもろこし)の一把(いちわ)をバタリと落した」
「白い庭鳥が二、三羽キャキャッと驚いた声を出して」
「じたじた水の垂れる傘のさきまでを見た」
「外はただサアッと雨が降っている」
「雲の峰は風に吹き崩されて」
「下女は碓(うす)のような尻を振立てて」
「主人は茹蛸のようになって帰って来た」
「滴る水珠は夕立の後かと見紛うばかり」
「主人の顔を見て『まあ、まるで金太郎のようで。』と可笑そうに云った」
「その面上にははや不快の雲は名残無く吹き掃われて」
「今思えば真実に夢のようなことでまるで茫然とした事だが」
「冷りとするような突き詰めた考え」
「暖かで燃え立つようだった若い時」
「思い込んだことも、一ツ二ツと轄が脱けたり輪が脱れたりして車が亡くなって行くように、消ゆるに近づく」
「云わば恋の創痕(きずあと)の痂(かさぶた)が時節到来して脱(と)れたのだ」
「人名や地名は林間の焚火の煙のように、逸し去っている」
「蟻が塔を造るような遅々たる行動」
「白雲(はくうん)の風に漂うが如くに、ぶらりぶらりとした身」
「秋葉(しゅうよう)の空に飄(ひるがえ)るが如くに、ぶらりぶらりとした身」
「鶴の如くに痩せた病躯」
「線のような道」
「蟻の如くになりながら通り過ぎ」
「蟹の如くになりながら通り過ぎ」
「木の葉の雨」
「山中に入って来た他国者をいじめでもするように襲った」
「火を付けたら心よく燃えそうに乱れ立ったモヤモヤ頭」
「木彫のような顔をした婆さん」
「感謝の嬉し涙を溢らせているように、水を湛えている」
「下駄の一ツが腹を出して死んだようにころがっていた」
「ただこの薄禿頭、お恰好の紅絹(もみ)のようなもの一つとなってしもうたか」
「おれが思っていた女」
「色も少しは白かったろう」
「ある娘に思われた」
「草書で白ぶすまを汚せる」
「庖丁の音をさせたり、台所をゴトツカせている」
「庖丁の音をさせたり、台所をゴトツカせている」
「東京の塵埃(じんあい)を背後(うしろ)にした」
「外にはサアッと雨が降っている」
「五分苅ではない五分生えに生えた頭」
「今考えても冷りとするような突き詰めた考え」
「茅屋(かやや)が二軒三軒と飛び飛びに物悲しく見えた」
「寝静まった通りに凝視(みい)っていた」
「起きている窓はなく」
「深夜の静けさは暈(かさ)となって街燈のぐるりに集まっていた」
「深夜の静けさは街燈のぐるりに集まっていた」
「遠くの樹に風が黒く渡る」
「仄白く浮かんだ家の額」
「喬(たかし)は青鷺のように昼は寝ていた」
「深い霧のなかを影法師のように過ぎてゆく想念」
「影法師のように過ぎてゆく想念」
「ネエヴルの尻のようである」
「脹(は)れはネエヴルの尻のようである」
「ある痕は、古い本が紙魚(しみ)に食い貫かれたあとのようになっている」
「腫物はサボテンの花のようである」
「釦の多いフロックコートを着たようである」
「生活に打ち込まれた一本の楔(くさび)」
「生活に打ち込まれた一本の楔」
「また一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた」
「また一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた」
「彼は病める部分を取出して眺めた」
「それはなにか一匹の悲しんでいる生き物の表情」
「それ[=女の腕]はまさしく女の腕であって、それだけだ」
「榊の葉やいろいろの花にこぼれている朝陽の色」
「川水は簾(すだれ)のようになって落ちている」
「新聞紙が一しきり風に堪えていた」
「新聞紙が風に堪えていたが、ガックリ転ると」
「加茂の森が赤い鳥居を点じていた」
「パラソルや馬力が動いていた」
「美しい枯れた音がした」
「鈴の音は身体の内部へ流れ入る溪流のように思えた」
「鈴の音は腰のあたりに湧き出して」
「鈴の音は彼の身体の内部へ流れ入る澄み透った溪流のように思えた」
「鈴の音は澄み透った溪流のように思えた」
「鈴の音は身体を流れめぐって」
「彼の血を洗い清めてくれる」
「彼の小さな希望は深夜の空気を顫(ふる)わせた」
「私の病んでいる生き物」
「暗黒が絶えない波動で刻々と周囲に迫って来る」
「暗黒が周囲に迫って来る」
「われわれは悪魔を呼ばなければならない」
「金毛の兎が遊んでいるように見える枯萱山(かれかれやま)」
「枯萱山(かれかれやま)が夜になると黒ぐろとした畏怖に変わった」
「孤独の電燈を眺めた」
「光がはるばるやって来て」
「光が私の着物をほのかに染めている」
「身を噛むような孤独」
「深い溪谷が闇のなかへ沈む」
「山々の尾根が古い地球の骨のように見えて来た」
「山々は私のいるのも知らないで話し出した」
「バァーンとシンバルを叩いたような感じである」
「溪は尻っ尾のように細くなって」
「その木の闇は大きな洞窟のように見える」
「爬虫の背のような尾根が蜿蜒(えんえん)と匍(は)っている」
「爬虫の背のような尾根が蜿蜒(えんえん)と匍(は)っている」
「尾根が蜿蜒(えんえん)と匍(は)っている」
「杉林がパノラマのように廻って」
「木が幻燈のように光を浴びている」
「闇は街道を呑み込んでしまう」
「心が捩じ切れそうになる」
「どこへ行っても電燈の光の流れている夜」
「気味の悪い畜類の飛んでいるのが感じられる」
「港に舫(もや)った無数の廻船(かいせん)のように建て詰んだ」
「物干しがなんとなくそうしたゲッセマネのような気がしないでもない」
「しかし私はキリストではない」
「妄想という怪獣の餌食となりたくない」
「どの家も寐静まっている」
「露路に住む魚屋の咳」
「肺病は陰忍な戦いである」
「家賃を払う家が少なくて」
「葬儀自動車が来る」
「魚屋が咳いている」
「白いものが往来している」
「ブールヴァールを歩く貴婦人のように悠々と歩く」
「市役所の測量工夫のように辻から辻へ走ってゆく」
「変てこな物音をたてる生物になってしまった」
「人と一緒にものを見物しているような感じが起って来た」
「こういう動物の図々しいところ」
「ニつの首がくるりと振り向いた」
「描は二条の放射線となって」
「俺は石だぞ」
「河鹿(かじか)が恐る恐る顔を出す」
「すでに私は石である」
「南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物そっくりになって来た」
「小さい流れがサーッと広びろとした江に変じてしまった」
「彼らの音楽ははたと止まった」
「声は風の渡るように響いて来る」
「絶えず揺れ動く一つのまぼろしを見るようである」
「この地球に響いた最初の生の合唱」
「その声は涙を催させるような種類の音楽である」
「合唱の波のなかに漂いながら」
「雄の鳴くたびに『ゲ・ゲ』と満足気な声で受け答えをする」
「雌は『ゲ・ゲ』とうなずいている」
「水を渡りはじめた」
「母親に泣きながら駆け寄って行くときと少しも変ったことはない」
「ビールの酔いを肩先にあらわし」
「ダンスレコードが暑苦しく鳴っていた」
「感傷の色が酔いの下にあらわれて」
「世間に住みつく根を失って」
「世間に住みつく根を失って浮草のように流れている」
「僕一人が浮草のように流れている」
「青年はウエイトレスがまたかけはじめた『キャラバン』の方を向いて」
「南京鼠の匂いでもしそうな汚いエキゾティシズムが感じられた」
「南京鼠の匂いでもしそうな汚いエキゾティシズム」
「その青年の顔は相手の顔をじっと見詰めて」
「青年の顔にはわずかばかりの不快の影が通り過ぎた」
「青年の顔にはわずかばかりの不快の影が通り過ぎた」
「半分夢を見ているような気持です」
「心を集めてそこを見ていると」
「青年はまたビールを呼んだ」
「ウィーンの市が眠っている」
「新しい客の持って来た空気」
「白い布のような塊りが照らし出されていて」
「白い布のような塊りが明るい燈火に照らし出されて」
「白いシーツのように見えていた」
「生理的な終結はあっても、空想の満足がなかった」
「心にのしかかって来た」
「萎びた古手拭のような匂い」
「自分に萎びた古手拭のような匂いが沁みているような気がして」
「顔貌(かおつき)にもいやな線があらわれて」
「女の諦めたような平気さ」
「女の諦めたような平気さが極端にいらいらした嫌悪を刺戟する」
「主婦はもう寝ていた」
「窓のなかの二人はまるで彼の呼吸を呼吸しているようであり」
「まるで彼の呼吸を呼吸しているようであり」
「彼は二人の呼吸を呼吸しているようである」
「その寡婦と寝床を共にしている」
「薄い刃物で背を撫でられるような戦慄」
「自分の持っている欲望を言わば相手の身体にこすりつけて」
「自分と同じような人間を製造しようとしていた」
「だんだんもつれて来る頭」
「生島はだんだんもつれて来る頭を振るようにして」
「家が朽ちてゆくばかりの存在を続けている」
「通りすがりの家が窓を開いている」
「味気ない生活が蚊遣りを燻したりしていた」
「自分の心を染めている」
「顔には浮世の苦労が陰鬱に刻まれていた」
「その部屋と崖との間の空間がにわかに一揺れ揺れた」
「なにか芝居でも見ているような気でその窓を眺めていた」
「自分の不活溌のどこかにそんな匂いを嗅いだ」
「動き出すことの禁ぜられた沼のように淀んだところ」
「動き出すことの禁ぜられた沼のように淀んだところ」
「沼の底から湧いて来る沼気(メタン)のようなやつがいる。いやな妄想がそれだ。」
「沼の底から湧いて来る沼気(メタン)のようなやつ」
「妄想が不意に頭を擡(もた)げる」
「草の葉のように揺れているもの」
「秋風に吹かれてさわさわ揺れている草自身の感覚というようなものを感じる」
「冷い白い肌に電燈の像を宿している可愛い水差し」
「自分の顔がまるで知らない人の顔のように見えて」
「醜悪な伎楽の腫れ面という面そっくりに見えて来たりする」
「鏡の中の顔が消えてあぶり出しのようにまた現われたりする」
「鏡のなかの伎楽の面を恐れながら」
「変に不思議なところへ運ばれて来たような気持ち」
「淀んだ気持と悪く絡まった」
「淀んだ気持と悪く絡まった」
「お化けのような顔になっているのじゃないかな」
「濡れたタオルを繰り返した」
「自分の口は喋っているのだった」
「はじめは振っているがしまいには器に振られているような」
「お前たちは並んでアラビア兵のようだ」
「バグダッドの祭のようだ」
「宙を踏んでいるように頼りない気持であった」
「自分が歩いてゆく」
「こちらの自分はその自分を眺めている」
「地面はなにか玻璃を張ったような透明で」
「湯気が屏風のように立騰っている」
「富士も丹沢山も一様の影絵を茜の空に写す」
「摺鉢を伏せたような形」
「頭を出している赤い屋根」
「眼に立ってもくもくして来た緑の群落のパノラマに向き合っていた」
「どこか他国を歩いている感じだ」
「その日の獲物だった近道を通うようになった」
「自分は高みの舞台で一人滑稽な芸当を一生懸命やっているように見える」
「鋲の打ってない靴の底はずるずる赤土の上を滑りはじめた」
「石垣の鼻のザラザラした肌で靴は自然に止った」
「飛び下りる心構えをしていた脛(すね)はその緊張を弛めた」
「大きな邸(やしき)の屋根が並んでいた」
「なるほどこんなにして滑って来るのだと思った」
「泳ぎ出して行くような気持」
「その窮屈がオークワードになります」
「車の響きが音楽に聴こえる」
「車の響きが彼等の凱歌のように聞える」
「——と云えば話になってしまいますが」
「あの海に実感を持たねばならぬ」
「その音が例の音楽をやるのです」
「機を織るような一定のリズムを聴きはじめた」
「衣ずれのような可愛いリズムに聴き入りました」
「小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました」
「心から遠退いていた故郷と膝をつきあわせた」
「それを『声がわり』だと云って笑ったりしました」
「『チョッ。ぼろ船の底』」
「樫の木の花が重い匂いをみなぎらせていました」
「飾燈(かざりとう)のような美しい花が咲いていました」
「私の美に対する情熱が娘に対する情熱と胎を共にした双生児だった」
「私の思い出を曇らせる雲翳(うんえい)だった」
「あたかも幸福そのものが運ばれて其処にあるのだと思わせる」
「老人の何も知らない手」
「その子の首を俯向かせてしまいました」
「Hysterica Passio ——そう云って私はとうとう笑い出しました」
「ごんごん胡麻は老婆の蓬髪のようになってしまった」
「欅(けやき)が風にかさかさ身を震わす」
「屏風のように立ち並んだ樫の木」
「金魚の仔でもつまむようにしてそれを土管の口へ持って行くのである」
「一塊の彩りは、凝視めずにはいられなかった」
「一塊の彩りは、凝視めずにはいられなかった」
「住むべきところをなくした魂」
「魂は外界へ逃れようと焦慮(あせ)っていた」
「盲人のようにそとの風景を凝視(みつ)める」
「聾者のような耳を澄ます」
「墨汁のような悔恨やいらだたしさが拡がってゆく」
「悔恨やいらだたしさが拡がってゆく」
「悲しげに、遠い地平へ落ちてゆく入日を眺めているかのように見えた」
「埃及(エジプト)のピラミッドのような巨大な悲しみを浮かべている」
「どんな小さな石粒も巨大な悲しみを浮かべている」
「蒼桐の幽霊のような影が写っていた」
「もやしのように蒼白い堯(たかし)の触手」
「もやしのように蒼白い堯(たかし)の触手」
「そこに滲み込んだ不思議な影の痕を撫でる」
「木造家屋に滲み込んだ影の痕を撫でる」
「触手は不思議な影の痕を撫でる」
「樫の並樹は鋼鉄のような弾性で撓(し)ない踊りながら」
「樫の並樹は撓(し)ない踊りながら」
「枯葉が骸骨の踊りを鳴らした」
「枯葉が骸骨の踊りを鳴らした」
「意志を喪(うしな)った風景のなかを死んでいった」
「たくさんの虫が悲しんだり泣いたりしていた」
「一匹の死にかけている虫」
「現前する意志を喪(うしな)った風景が浮かびあがる」
「圧しつけるような暗い建築の陰影」
「疎な街燈の透視図」
「時どき過ぎる水族館のような電車」
「それは空気のなかでのように見えた」
「思索や行為は佯(いつわ)りの響をたてはじめ」
「彼の思索や行為は凝固した」
「近代科学の使徒が堯にそれを告げた」
「日光が葉をこぼれている」
「笹鳴きは口の音に迷わされてはいるが」
「鶯がなにか堅いチョッキでも着たような恰好をしている」
「いつになく早起きをした午前にうっとりとした」
「日光に撒かれた虻(あぶ)の光点が忙しく行き交うていた」
「虻(あぶ)が茫漠とした堯の過去へ飛び去った」
「堯(たかし)の虻(あぶ)は見つけた」
「エーテルのように風景に広がっている虚無」
「幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
「その幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
「鉛筆で光らせたように凍てはじめた」
「陶器のように白い皮膚」
「漣漪(さざなみ)のように起こっては消える微笑を眺めながら」
「灰を落としたストーヴのように顔には一時鮮かな血がのぼった」
「ものを言うたび口から蛙が跳び出すグリムお伽噺の娘のように」
「貧しい下駄が出て来てそれをすりつぶした」
「笑顔が湧き立っているレストラン」
「物憂い冬の蠅が幾匹も舞っていた」
「病院の廊下のように長く続いた夜だった」
「生活は死のような空気のなかで停止していた」
「思想は書棚を埋める壁土にしか過ぎなかった」
「屋根瓦には月光のような霜が置いている」
「冬の日が窓のそとのまのあたりを幻燈のように写し出している」
「白い冬の面紗(ヴェイル)を破って」
「その日赤いものを吐いた」
「匕首(あいくち)のような悲しみが彼に触れた」
「悲しみが彼に触れた」
「水準器になってしまったのを感じた」
「浮雲が次から次へ美しく燃えていった」
「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
「不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」
「不吉な塊が私の心を圧えつけていた」
「酒を毎日飲んでいると宿酔(ふつかよい)に相当した時期がやって来る」
「背を焼くような借金などがいけないのではない」
「いけないのはその不吉な塊だ」
「私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけてゆく」
「想像の絵具を塗りつけてゆく」
「詩美と言ったような味覚が漂って来る」
「無気力な私の触角にむしろ媚びて来るもの」
「私の触角に媚びて来る」
「書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように見える」
「音楽の快速調の流れがあんな色彩やあんなヴォリウムに凝り固まったというふうに果物は並んでいる」
「見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面——的なもの」
「青物も積まれている」
「飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている」
「廂(ひさし)が眼深に冠った帽子の廂のように」
「『おや、あそこの店は帽子の廂をやけに下げているぞ』と思わせる」
「電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛」
「店頭に点けられた幾つもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛」
「電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる」
「眼の中へ刺し込んでくる」
「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色」
「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
「不吉な塊が弛んで来た」
「私は街の上で非常に幸福であった」
「執拗(しつこ)かった憂鬱が紛らされる」
「身内に浸み透ってゆくようなその冷たさ」
「その果実を鼻に持っていっては嗅いでみた」
「漢文で習った『売柑者之言』の中に書いてあった『鼻を撲つ』という言葉」
「私は往来を軽やかな昂奮に弾んで」
「私は往来を軽やかな昂奮に弾んで」
「色の反映を量ったり」
「私の心を充たしていた幸福な感情」
「幸福な感情は逃げていった」
「香水の壜にも煙管にも私の心はのしかかってはゆかなかった」
「憂鬱が立て罩(こ)めて来る」
「本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて」
「奇怪な幻想的な城が赤くなったり青くなったりした」
「軽く跳りあがる心を制しながら」
「城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた」
「その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって」
「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収して」
「ひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収して」
「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収してしまって」
「くすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた」
「黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た」
「丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったら」
「教室へ出るような親しさを感じた」
「人びとの肩の間を屋外に出た」
「心が鋭い嫌悪にかわるのを、私は見た」
「私の心が嫌悪にかわるのを見た」
「人びとが席に帰って、元のところへもとの頭が並んでしまう」
「私の頭はなにか凍ったようで」
「十本の指が泡を噛んで進んでゆく波頭のように鍵盤に挑みかかっていた」
「十本の指が戯れ合っている家畜のように鍵盤に挑みかかっていた」
「演奏者の白い十本の指が鍵盤に挑みかかっていた」
「私の耳は不意に音楽を離れて」
「私の耳は会場の空気に触れたりした」
「ちょうどそれに似た孤独感が遂に突然の烈しさで私を捕えた」
「孤独感が私を捕えた」
「ふとその完全な窒息に眼覚めたとき」
「なんという不思議だろうこの石化は?」
「あたかも夢のように思い浮かべた」
「私にはそれが不思議な不思議なことに思えた」
「言いようもないはかなさが私の胸に沁みて来た」
「木枯のような音が一しきり過ぎていった」
「何を意味していたのか夢のようだった」
「会の終わりを病気のような寂寥感で出口の方へ動いて行った」
「背広服の肩が私の前へ立った」
「服地の匂いが私の寂寥を打った」
「たちまち萎縮してあえなくその場に仆れてしまった」
「猫の耳は竹の子の皮のように表には絨毛が生えていて」
「『切符切り』でパチンとやるというような児戯に類した空想」
「外観上の年齢を遙かにながく生き延びる」
「児戯に類した空想もながく生き延びる」
「厚紙でサンドウィッチのように挟んだうえから」
「その下らない奴は悲鳴をあげた」
「私の古い空想はその場で壊れてしまった」
「なんだか木管楽器のような気がする」
「——できない。——異(ちが)う。——なんにもない。」
「空想を失ってしまった詩人」
「早発性痴呆に陥った天才にも似ている」
「鉤(かぎ)のように曲った鋭い爪」
「匕首(あいくち)のように鋭い爪」
「閃光のように了解した」
「前足の横側には毛脚の短い絨氈(じゅうたん)のような毛が密生していて」
「桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ」
「よく廻った独楽が完全な静止に澄むように」
「音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように」
「灼熱した生殖の幻覚させる後光」
「それは灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ」
「水晶のような液をたらたらとたらしている」
「桜の根は貪婪(どんらん)な蛸のように」
「いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚(あつ)めて」
「毛根の吸いあげる水晶のような液」
「毛根の吸いあげる液が行列を作って維管束のなかをあがってゆく」
「水晶のような液が維管束のなかを夢のようにあがってゆく」
「薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て」
「彼らはそこで美しい結婚をするのだ」
「思いがけない石油を流したような光彩」
「かさなりあった翅が油のような光彩を流している」
「光彩を流している」
「そこが、産卵を終わった彼らの墓場だった」
「墓場を発いて屍体を嗜む変質者のような残忍なよろこび」
「白い日光をさ青(お)煙らせている」
「俺の心は悪鬼(あっき)のように憂鬱に渇いている」
「俺の心は渇いている」
「べたべたとまるで精液のようだ」