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「南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物そっくりになって来た」

「南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物そっくりになって来た」

Page Type Example
Example ID a1255
Author 梶井基次郎
Piece 「交尾」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 64

Text

こんな風にして真近に河鹿(かじか)を眺めていると、ときどき不思議な気持になることがある。芥川龍之介は人間が河童(かっぱ)の世界へ行く小説を書いたが、河鹿の世界というものは案外手近にあるものだ。私は一度私の眼の下にいた一匹の河鹿から忽然(こつぜん)としてそんな世界へはいってしまった。その河鹿は瀬の石と石との間に出来た小さい流れの前へ立って、あの奇怪な顔つきでじっと水の流れるのを見ていたのであるが、その姿が南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物そっくりになって来た、と思う間に彼の前の小さい流れがサーッと広びろとした江に変じてしまった。その瞬間私もまたその天地の孤客たることを感じたのである。

Context Focus Standard Context
南画の河童とも漁師ともつかぬ点景人物 (河鹿蛙)

Rhetoric
Semantics

Source Relation Target Pattern
1 南画 = かえる 両生類=日本画

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A なって が-主語
2 B そっくりに[なって来た] =-らしい(らしい)
3 B [そっくりに]なっ[て来た] 変質する(へんしつする)
4 B [そっくりになっ]て[来た] て-補助用言に連なる用法
5 B [そっくりになって]来[た] 来る(くる)
6 B [そっくりになって来]た た-過去-終止形

Pragmatics

Category Effect
アナロジー・類推 (analogy) 河鹿ガエルが石に佇み、流れを凝視する様子を、南画において自然に対して小さく描かれた典型人物との類比関係から表現する。
自然描写 (description of nature) 河鹿ガエルが石に佇む様子を、絵画の比喩によって描写している。
イメジャリー・イメージ (imagery) 南画に描かれた人物のイメージを提示することで、現前の状況に引き込まれ、南画の描く自然世界に自身が入り込んだように錯覚することを表現する。

最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)