ex:a2451

「思いがけない石油を流したような光彩」

「思いがけない石油を流したような光彩」

Page Type Example
Example ID a2451
Author 梶井基次郎
Piece 「桜の樹の下には」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 46

Text

二三日前、俺は、ここの溪(たに)へ下りて、石の上を伝い歩きしていた。水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰(でく)わした。それは溪の水が乾いた磧(かわら)へ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。

Context Focus Standard Context
石油を流した (羽がかさなりあった) ような光彩

Rhetoric
Semantics

Source Relation Target Pattern
1 石油 = 羽・羽根=石油

Grammar

Construction AようなB
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A ような B 様-類似-連体形

Pragmatics

Category Effect
風景描写 (scene-description) 水たまりに広がっている薄羽かげろうの死骸の様子を表現する。
イメジャリー・イメージ (imagery) 水たまりの中のウスバカゲロウの死体がきらめいている様を、石油を流した時に生じる虹色の光沢によそえることで表現する。
対照法・対照 (antithesis) 前文脈で展開されるアフロディーテのイメージとの落差を生じさせ、美と醜のコントラストを作る。

最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)