ex:a2452

「かさなりあった翅が油のような光彩を流している」

「かさなりあった翅が油のような光彩を流している」

Page Type Example
Example ID a2452
Author 梶井基次郎
Piece 「桜の樹の下には」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 46

Text

二三日前、俺は、ここの溪(たに)へ下りて、石の上を伝い歩きしていた。水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰(でく)わした。それは溪の水が乾いた磧(かわら)へ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれてのような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。

Context Focus Standard Context

Rhetoric
Semantics

Source Relation Target Pattern
1 = 羽・羽根=油

Grammar

Construction AのようなB
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A の[ような] B の-「ようだ」「ごとし」で受ける場合
2 A [の]ような B 様-類似-連体形

Pragmatics

Category Effect
風景描写 (scene-description) 水たまりに広がっている薄羽かげろうの死骸の様子を表現する。
イメジャリー・イメージ (imagery) 水たまりに溜まった無数のウスバカゲロウの死体の羽が光を反射し、複雑な陰影を作っている様子を、油を流した時に生じる虹色の模様によそえて表現する。

最終更新: 2024/01/26 12:13 (外部編集)