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『坂口安吾』 - バックリンク
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「そして荒涼たる秋が残った」
「大変耳の悪い群衆は、次郎助へこう親切にとりついでやった」
「おさまりのない欠伸の形に拡がっていた」
「気絶以外の何物にも遭遇することは不可能である」
「彼の女は疑いもなく地の塩であった」
「沈黙が書斎に閉じ籠もる」
「椅子は劇しい癇癪(かんしゃく)を鳴らし」
「物体の描く陰影は突如太陽に向って走り出す」
「真空が閃光を散らして騒いでいる」
「竜巻が彼自身もまた周章(あわ)てふためいて湧き起る」
「全身にまばゆい喝采を浴びた」
「半左右衛門が脆くもぺしゃんこになった」
「山もうそ寒い空の中へ冷たい枯枝を叩き込んでいたりした」
「時雨が遠方の山から落葉を鳴らして走り過ぎて行く」
「また時雨が山の奥から慌てふためいて駈け出してくる」
「村全体が一つの重々しい合唱となって」
「村そのものが一つの動揺となって」
「山の狸や杜の鴉が顔色を変えて巣をとびだすと」
「血走った眼に時雨の糸が殴り込む」
「血走った眼に時雨の糸が殴り込む」
「一瞬場内が蒼白になると」
「村の顔役と教員が黄昏をともないながら入場した」
「二百三十六名で未曾有の国難をしょいきる」
「情熱は当面の村難へ舞い戻った」
「お峯は鬼となって」
「蒼白い神経の枯木と化していた私」
「心に爽やかな窓が展(ひら)く」
「夢のさなかへ彷徨(さまよ)うてゆく私の心を眺めた」
「生きるということは限りない色彩に掩(おお)われている」
「人間、あの怖ろしい悲劇役者」
「余の戸口に Banana の皮を撒布し」
「風博士は自殺したのである。しかり、死んだのである」
「村人は知識の殿堂へ殺到した」
「婆さんは仏間に冷たくなって寝ているんだよ」
「どんなに熱の高い病人でも注射の針を逃げまわっていた」
「問題は彼の口である」
「彼の口さえなかったとしたら」
「彼の身体は内心の動揺を押えたりできなかった」
「彼の逞ましい腕は彼の胸倉を叩いたり」
「革命を暗示するような動揺が移っていった」
「村全体が呻いた」
「村そのものが視凝(みつ)めたり」
「一掬(いっきく)の泪(なみだ)を惜しまない」
「躍る胸に鬘(かつら)をひそめて」
「ああ冷静なること扇風機のごとき諸君よ」
「風である。インフルエンザに犯されたのである」
「諸君は軽率に真理を疑っていいのであろうか?」
「ゴツンと息をのんだ」
「一人は肥満すること豚児(とんじ)のごとく」
「高尚なること槲(かしわ)の木のごとき諸君よ」
「聡明なること世界地図のごとき諸君よ」
「賢明にして正大なること太平洋のごとき諸君よ」
「明敏なること触鬚(しょくしゅ)のごとき諸君」
「余の妻は麗はしきこと高山植物のごとく」
「冷静なること扇風機のごとき諸君よ」
「余は空気のごとく彼の寝室に侵入する」
「余は影のごとく忍び出た」
「黄昏に似た沈黙がこの書斎に閉じ籠もる」
「何本もの飛ぶ矢に似た真空が閃光を散らして騒いでいる」
「黒い塊が導火線を這うように驀地(まっしぐら)にせりあがってきた」
「動揺が、電波のように移っていった」
「村全体が地底から響くように呻いた」
「村そのものが埋葬のようにゆるぎだした」
「遠い山からそれを見ると、勤勉な蟻に酷似していた」
「彼は滑りすぎる車のように、実にだらしなく好機嫌になった」
「蒼空のような夢」
「生きるということは、ハアリキンの服のように限りない色彩に掩(おお)われているもの」
「案山子のように退屈した農夫たち」
「慎しみ深い心の袋」
「空間の一ヶ所を穴ぼこのように視凝(みつ)めたり」
「これは金言のように素晴らしい思いつきの言葉だった」
「踊るような腰つき」
「極めて小数の人達しか知らない悪い言葉」
「一つの黒い塊が湧きあがってきて」
「幾百万の(とは言え本当は人口二百三十六名である)村人は殺到した」
「谷底から現れた小粒な斑点は一つ残らず校門へ吸い込まれた」
「神経の枯木と化していた私」
「胸に手を当ててごらん!」
「佩刀(はいとう)をガチャガチャいわせた」
「ああ、千慮の一失である」
「諸君、彼は禿頭である。然り、彼は禿頭である」
「ああこれ実に何たる滑稽! 然り何たる滑稽である」
「唯(ただ)一策を地上に見出すのみである。しかり、ただ一策である」
「しかるに諸君、ああ諸君、おお諸君」
「風である。しかり風である風である風である」
「驚いたではないか! 驚いた! ほんとうに驚いたか! 本当に驚いた!」
「麗はしきこと高山植物のごとく、単なる植物ではなかった」
「夜が明け放たれた」
「あわただしい後悔と一緒に黄昏に似た沈黙がこの書斎に閉じ籠もる」
「時計はいそがしく十三時を打ち」
「竜巻が周章(あわ)てふためいて」
「水をくれえ。お茶がええ」
「時雨が山の奥から慌てふためいて駈け出してくる」
「沈着を一人で引受けた足どりで演壇へ登った」
「この深刻な手つきは精神的魅力に富んでいた」
「大変耳の悪い群衆は親切にとりついでやった」
「思わず卒倒してしまう感激した」
「笑いは泪より内容の低いもの」
「笑いは泪より内容の低いもの」
「喜劇が泪の裏打ちによって抹殺を免かれている」
「喜劇(コメディ)というものが危く抹殺を免かれている」
「芸術の埒外(らちがい)へ投げ捨てられている」
「感激のあまり動悸(どうき)が止まって卒倒する」
「『芸術』の二文字を語彙の中から抹殺して」
「この厄介な『芸術』の二文字を語彙の中から抹殺して」
「清浄にして白紙のごとく寛大な読者の『精神』」
「喜劇は泪の裏打ちによって人を打つ」
「寓意や泪の裏打ちによって人を打つ」
「ドビュッシーの価値を決して低く見積りはしない」
「時代の人を盲目とする蛮力(ばんりょく)に驚きを深くせざるを得ない」
「音を説明するためには言葉を省いて音譜を挿(はさ)み」
「人生を描くためなら、地球に表紙をかぶせるのが一番正しい」
「さながら雲を掴むようにしか『言葉の純粋さ』について説明を施し得ない」
「愚かな無意味なものとするほかには何の役にも立っていない」
「最低のスペシアリテまでは読者の方で上って来なければならぬ」
「スペシアリテ以下にまで作者の方から出向いて行く法はない」
「人間というものは、儚ない生物にすぎない」
「芸術の中へ大胆な足を踏み入れてはならない」
「ここから先へ一歩を踏み外せば」
「喜びや悲しみや歎(なげ)きや夢や嚔(くしゃみ)やムニャムニャや」
「愛すべき怪物が、愛すべき王様が、すなわち紛れなくファルスである」
「有(あら)ゆる翼を拡げきって」
「空想であれ、夢であれ、死であれ、怒りであれ、矛盾であれ、トンチンカンであれ、ムニャムニャであれ」
「否定をも肯定し」
「肯定をも肯定し」
「ファルスとは、否定をも肯定し、肯定をも肯定し、さらにまた肯定し、結局人間に関する限りの全てを永遠に永劫に永久に肯定肯定肯定して止むまいとするものである」
「ファルスとは、否定をも肯定し、肯定をも肯定し」
「ファルスとは、否定をも肯定し、肯定をも肯定し」
「永遠に永劫に永久に肯定肯定肯定して止むまい」
「何言ってやんでいを肯定し」
「と言ったようなもんだよを肯定し」
「途方もない矛盾の玉をグイとばかりに呑みほす」
「途方もない混沌をグイとばかりに呑みほす」
「ドン・キホーテ先生のごとく、頭から足の先まで Ridicule に終ってしまう」
「この親父と子供を、懸命な珍妙さにおいて大立廻りを演じさせてしまう」
「木像のごとく心臓を展(ひら)くことを拒む」
「木杭(きぐい)のごとく心臓を展(ひら)くことを拒む」
「電信柱のごとく断じて心臓を展(ひら)くことを拒む」
「心臓を展(ひら)くことを拒む」
「得体(えたい)の知れない混沌を捏(こ)ね出そうとするかのように」
「自分とは関係のない存在だと切り離してしまっていた」
「父について無であり」
「不快な老人を知っていただけ」
「阿賀川の水がかれてもあそこの金はかれない」
「いつも乞食の子供のような破れた着物をきていた」
「私の母を苦しめたのは貧乏と私だけではない」
「父の中に私を探す」
「父の中に私を探す」
「私は多くの不愉快な私の影を見出した」
「遺恨のごとく痛烈に理解せられる」
「私の無関係なこの老人」
「なぜ胸に焼きつけているかというと、父はもう動くことができなかった」
「入道のような大坊主で」
「海坊主のような男であった」
「私は親父の同じ道を跡を追っている」
「私は親父の同じ道を跡を追っている」
「それにつけたして『然し裏面のことはどうだか知らない』と咢堂は特につけたしているのである」
「政治家よりも文学者により近い」
「咢堂の厭味を徹底的にもっている」
「ウンザリするほど咢堂的な臭気を持ちすぎている」
「私自身の体臭を嫌うごとくに咢堂を嫌う」
「老人はギラギラした目でなめるように擦り寄ってきて」
「私はその薄気味悪さを呪文のように覚えている」
「持病で時々死の恐怖をのぞき」
「死と争ってヒステリーとなり」
「母の人柄は怪物のようにわけが分らなく」
「英雄のような気取った様子でアバヨと外へ出て行く」
「私の胸は切なさで破れないのが不思議であった」
「こういうことは大谷が先生であった」
「渡辺という達人もいた」
「この切なさで子供とすぐ結びついてしまう」
「それは健康な人の心の姿ではない」
「父は晩年になって長男と接触して」
「それはもう異国の旅行者の目と同じ」
「好奇の目を輝やかせるようになったのだが、それはもう異国の旅行者の目と同じ」
「私は一人の老人について考え」
「墨をすらせる子供以外に私について考えておらず」
「『紅楼夢』を私自身の現身のようにふと思う」
「オレは石のようだな」
「そして、石が考える」
「迷園のごとく陰気でだだっ広く」
「未来への絶望と呪咀のごときものが漂っている」
「住む人間は代々の家の虫で」
「家づきの虫の形に次第に育って行く」
「その家づきの虫の形に次第に育って行く」
「死んでなお霊気と化してその家に在るかのように」
「一見寺のような建物で」
「屋根裏は迷路のように暗闇の奥へ曲りこんで」
「私は物陰にかくれるようにひそんで」
「ピュウピュウと悲鳴のように空の鳴る吹雪」
「音の真空状態というものの底へ落ちた雪」
「私の東京の家は姉の娘達の寄宿舎のようなものであった」
「東京の小さな部屋が自分の部屋のようで」
「自分の部屋のようで可愛がる気持になる」
「家に生れた人間の宿命であり溜息であり」
「いつも何か自由の発散をふさがれている」
「自由の発散をふさがれているような」
「家の虫の狭い思索と感情の限界がさし示されている」
「思索と感情の限界がさし示されているような陰鬱な気がする」
「私のふるさとの家は空と、海と、砂と、松林であった」
「ふらふらと道をかえて知らない街へさまよいこむような悲しさ」
「海と空と風の中にふるさとの母をよんでいた」
「私も亦家の一匹の虫であった」
「白痴は強情であった」
「石が死にかけてから」
「石が死にかけてから真剣に考えはじめ」
「野宿して乞食のように生きており」
「三畳の戸を倒して」
「体力が全力をこめて突き倒し」
「その姿が風であって見えない」
「白痴が息をひきとった」
「私の胸は悲しみにはりさけないのが不思議であり」
「罪と怖れと暗さだけでぬりこめられている」
「犬のように逃げ隠れて」
「雷神のごとくに荒々しい帰宅であった」
「空の奥、海のかなたに見えない母をよんでいた」
「ふるさとの母をよんでいた」
「一つの石が考えるのである」
「放校されたり、落第したり、中学を卒業した」
「ボクサーは蛇をつかまえて売るのだと云って」
「ボクサーが蛇を見つけ」
「少年多感の頃の方が今の私よりも大人であった」
「『改造』などへ物を書いており」
「『改造』などへ物を書いており」
「奥さんと原始生活をしていた」
「サイダーがあるから、ぜひ上れという」
「私が代用教員をしたところは、まったくの武蔵野で」
「私の始めて見た意外であって」
「私はこの人の面影を高貴なものにだきしめていた」
「私はこの人の面影を高貴なものにだきしめていた」
「ただその面影を大切なものに抱きしめていた」
「ただその面影を大切なものに抱きしめていた」
「美しい人のまぼろし」
「所蔵という精神がなかったが、所蔵していたものといえば高貴な女先生の幻で」
「そういう家自体の罪悪の暗さ」
「性格の上にも陰鬱な影となって落ちており」
「性格の上にも陰鬱な影となって落ちており」
「生理的にももう女ではないのだろうか」
「まったく野獣のような力がこもっていて」
「二人の肉体を結びつけた」
「石津はオモチャにされ、踏みつけられ」
「踏みしだかれて、路上の馬糞のように喘いでいる」
「路上の馬糞のように喘いでいる」
「甘んじて犠牲になるような正しい勇気も一緒に住んでいる」
「自殺が生きたい手段の一つである」
「青年子女が『資本論』という魔法使いの本に憑かれだした」
「生徒があたかも忍び込む煙のような朦朧さで這入ってきた」
「生徒が、あたかも煙のような朦朧さで這入(はい)ってきた」
「今日が始まろうとしていた」
「必要以上に考え深い人達が幸福な保護を受けている」
「鉄格子のあちら側には幸福な保護を受けている」
「必要以上に大きな空気をごくりと呑んで」
「こういう顔付が刑務所の鉄格子のあちら側にある顔だと思いこんでしまう」
「ようやくコンゴーのジャングルから現れてきたばかりだという面影」
「この怪物の入学には一方ならず怯えた」
「気の毒なほどひやりと顔色を変える」
「蟇やゴリラはめったに人に話しかけない」
「霧を吸い木の芽をくい、モモンガーを退治してすき焼をつくり」
「蛇だって足や腹をすべらして墜落したら」
「栗栖按吉(くりすあんきち)がクリクリ坊主になって」
「フレンド軒は横を向いて息をのんだ」
「御好み通り傷の十は進上してお帰しするから覚えていろ」
「御好み通り傷の十は進上してお帰しするから覚えていろ」
「頭からは汗が湧出し流れる」
「頭自体が水甕(みずがめ)にほかならない」
「耳と耳の間が風を通す洞穴になっていて」
「風と一緒に先生の言葉も通過させてしまう」
「栗栖按吉がこのようなたった一人の惨めな生徒であった」
「精神の貧困ほど陰惨で、みじめきわまるものはない」
「朝めし前の茶漬けにもならない」
「覚えまいと思っていても覚えるほかに手がない」
「あんなもの、朝めし前の茶漬けだぜ」
「膝関節がめきめきし、肩が凝って息がつまってくる」
「目がくらむ。スポーツだ」
「肉体がそもそも辞書に化したかのような」
「二苦労や七苦労で原書がお読めになるところまで行けない」
「二苦労や七苦労で原書がお読めになるところまで行けない」
「二苦労や七苦労で原書がお読めになるところまで行けない」
「女の人に道を尋ねて女の人が返事をしてくれれば、女の人をわが物にしたことになるというのと同じようなもの」
「チベット語はたしかに臭い」
「先生は二三十分も激しい運動をなすっていらっしゃるが、単語が現れてくれない」
「スカンクも悶絶するほど臭い」
「チベット語を吸いて帰れり」
「年中あのことばかり考え耽っていた」
「心はしばらくふくらんでいた」
「悟りが息を殺して隠れている」
「悟りが息を殺して隠れている」
「猿の大王だの豚の精だのひきつれてでかけた坊主もいた」
「猿の大王だの豚の精だのひきつれてでかけた坊主もいた」
「先生方はみんな頭の涼しい方で」
「肉体は常に温顔をたたえ」
「さながら春の風をたたえていらっしゃる」
「肉体は梅花咲くあのやわらかな春風をたたえて」
「肉体は春風をたたえて」
「温顔が目の前いっぱいに立ちふさがっている」
「温顔がニコニコときさくに語って下さる」
「温顔がニコニコと仰有る」
「温顔が按吉の頭の中へのりこんできて」
「温顔がのっしのっしと按吉の頭の中へのりこんできて」
「温顔が頭の中へのりこんできて」
「脳味噌を掻きわけてあぐらをかいてしまう」
「温顔が脳味噌を掻きわけて」
「温顔があぐらをかいて」
「坊主の学校で」
「坊主の勉強しなければならない」
「坊主の足を洗いたい」
「金輪際坊主の講座へでてこなかった」
「風に吹かれて飛びそうな姿」
「龍海さんは貯金の鬼であった」
「亡者にちかい姿になった」
「八さん熊さんと同列に落語の中の人物になる」
「落語の中の人物になるような頓間な飲み方はしない」
「ノスタルジイにちかい激烈な気持であった」
「秦蔵六だの竹源斎師など名前すら聞いたことがなく」
「匙をとりあげると口と皿の間を往復させ食べ終るまで下へ置かず」
「先生は、殺しても尚あきたりぬ血に飢えた憎悪を凝らして、僕を睨んだ」
「僕は祇園の舞妓と猪だとウッカリ答えてしまった」
「京都の隠岐は」
「東京の隠岐ではなく」
「京都の隠岐は古都のぼんぼんに変っていた」
「京都の隠岐は古都のぼんぼんに変っていた」
「一管のペンに一生を托して」
「清滝の奥や小倉山の墓地の奥まで踏みめぐった」
「禅坊主の悟りと同じことで」
「林泉や茶室というものは空中楼閣なのである」
「大自然のなかに自家の庭を見、又、つくった」
「彼の俳句自体が庭的なものを出て」
「三十三間堂の塀ときては塀の中の巨人である」
「智積院の屏風ときては、あの前に坐った秀吉が花の中の小猿のように見えた」
「秀吉が花の中の小猿のように見えた」
「『帰る』ということは不思議な魔物だ」
「あの大天才達は僕とは別の鋼鉄だろうか」
「孤独の部屋で蒼ざめた鋼鉄人の物思いに就て考える」
「突然遠い旅に来たような気持になる」
「病院は子供達の細工のようなたあいもない物であった」
「この工場は僕の胸に食い入り」
「書こうとしたことが自らの宝石であるか」
「その一生を正視するに堪えない」
「一つの歴史の形で巨大な生き者の意志を示している」
「歴史は別個の巨大な生物となって誕生し」
「歴史は巨大な生物となって誕生し」
「日本人は歴史の前ではただ運命に従順な子供であった」
「日本人は歴史の前ではただ運命に従順な子供であった」
「政治はやむべからざる歩調をもって」
「政治は大海の波のごとくに歩いて行く」
「政治は大海の波のごとくに歩いて行く」
「歴史の独創、又は嗅覚であった」
「歴史は常に人間を嗅ぎだしている」
「政治家達の嗅覚によるもの」
「日本の政治家達は絶対君主の必要を嗅ぎつけていた」
「歴史的な嗅覚に於てその必要を感じる」
「権謀術数がたとえば悪魔の手段にしても」
「悪魔が幼児のごとくに神を拝む」
「地獄に堕ちて暗黒の曠野(こうや)をさまよう」
「文学の道とはかかる曠野(こうや)の流浪である」
「予想し得ぬ新世界への不思議な再生」
「その奇怪な鮮度に対する代償として」
「奇妙な呪文に憑かれていた」
「石川島に焼夷弾の雨がふり」
「石川島に焼夷弾の雨がふり」
「大邸宅が嘘のように消え失せて」
「廃墟がなければピクニックと全く変るところがない」
「罹災者達の蜿蜿(えんえん)たる流れ」
「捨てられた紙屑を見るほどの関心しか示さない」
「罹災者達が無心の流れのごとくに死体をすりぬけて行き交い」
「罹災者達の行進は充満と重量をもつ無心であり」
「日本人は素直な運命の子供であった」
「娘達は未来の夢でいっぱいで」
「私は焼野原に娘達の笑顔を探すのがたのしみであった」
「無心であったが、充満していた」
「一尺離れているだけで全然別の世界にいる」
「敗戦の表情はただの堕落にすぎない」
「人間達の美しさも泡沫のような虚しい幻影にすぎない」
「堕落の平凡な跫音(あしおと)に気づく」
「堕落のただ打ちよせる波のようなその当然な跫音に気づく」
「打ちよせる波のようなその当然な跫音(あしおと)に気づく」
「処女の純潔の卑小さなどは泡沫のごとき虚しい幻像にすぎない」
「日本は嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさが咲きあふれていた」
「日本は嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさが咲きあふれていた」
「虚しい美しさが咲きあふれていた」
「未亡人はすでに新たな面影によって」
「新たな面影によって胸をふくらませている」
「ただ人間へ戻ってきたのだ」
「人間の心は苦難に対して鋼鉄のごとくでは有り得ない」
「他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し」
「自分自身の武士道をあみだす」
「自分自身の天皇をあみだす」
「人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ」
「石油成金の産地でもある」
「最も天皇を冒涜する者が最も天皇を崇拝していた」
「天皇を我が身の便利の道具とし」
「日本歴史のあみだした独創的な作品」
「日本歴史のあみだした独創的な作品」
「土人形のごとくにバタバタ死ぬのが厭でたまらなかった」
「土人形となってバタバタ死んだ」
「義理人情というニセの着物をぬぎさり」
「赤裸々な心になろう」
「この赤裸々な姿を突きとめ見つめる」
「日本は堕落せよと叫んでいる」
「『健全なる道義』から転落し」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「裸となって真実の大地へ降り立たなければならない」
「五十銭を三十銭にねぎる美徳だの、諸々のニセの着物をはぎとり」
「裸となり、ともかく人間となって出発し直す」
「ともかく人間となって出発し直す必要がある」
「まず裸となり、とらわれたるタブーをすて」
「真実の悲鳴を賭けねばならぬ」
「堕落すべき時にはまっさかさまに堕ちねばならぬ」
「虚しい義理や約束の上に安眠し」
「社会制度というものに全身を投げかけて」
「堕落者はただ一人曠野(こうや)を歩いて行く」
「堕落者はただ一人曠野(こうや)を歩いて行く」
「孤独という通路は神に通じる道であり」
「孤独という通路は神に通じる道であり」
「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや、とはこの道だ」
「キリストが淫売婦にぬかずくのもこの曠野(こうや)のひとり行く道に対して」
「キリストが淫売婦にぬかずくのもひとり行く道に対してであり」
「この道だけが天国に通じている」
「この道が天国に通じている」
「日本人が誕生したのである」
「社会制度は目のあらい網であり」
「人間は永遠に網にかからぬ魚である」
「人間は常に網からこぼれ堕落し」
「その魂の声を吐くものを文学という」
「反逆自体が協力なのだ」
「反逆自体が愛情なのだ」
「徴用されて機械にからみついていた」
「その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいた」
「物置のようなひん曲った建物があって」
「肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない」
「肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない」
「全部の者と公平に関係を結んだ」
「娘は大きな二つの眼の玉をつけていて」
「妹が猫イラズを飲んだ」
「裏側の人生にいくらか知識はある」
「仕立屋は哲学者のような面持で静かに答える」
「気違いは三十前後で、母親があり、二十五六の女房があった」
「うっとうしい能面のような美しい顔立ちで」
「古風の人形か能面のような美しい顔立ち」
「万巻の読書に疲れたような憂わしげな顔」
「気違いの方は我家のごとくに堂々と侵入してきて」
「白痴の女は音もなく影のごとくに逃げこんできて」
「婆さんの鳥類的な叫びが起り」
「虫の抵抗の動きのような長い反復がある」
「会社員よりも会社員的な順番制度をつくっている」
「内にあっては救済組織であるけれども外に出でてはアルコールの獲得組織で」
「彼等の魂や根性は会社員よりも会社員的であった」
「現実を写すだけならカメラと指が二三本あるだけで沢山ですよ」
「弾丸も飢餓もむしろ太平楽のようにすら思われる時があるほどだった」
「弾丸も飢餓もむしろ太平楽のようにすら思われる」
「底知れぬ退屈を植えつける奇妙な映画」
「蒼ざめた紙のごとく退屈無限の映画がつくられ」
「伊沢の情熱は死んでいた」
「ごめんなさいね、という意味も言ったけれども」
「無数の袋小路をうろつき廻る呟き」
「ごめんなさいね、がどの道に連絡しているのだか」
「白痴の女の一夜を保護するという眼前の義務」
「白痴の意志や感受性」
「人間以外のものが強要されているだけだった」
「白痴の心の素直さ」
「ただあくせくした人間共の思考」
「三ツか四ツの小さな娘をねむらせるように額の髪の毛をなでてやる」
「女を寝床へねせて」
「女はボンヤリ眼をあけて」
「まったく幼い子供の無心さと変るところがない」
「芸術の前ではただ一粒の塵埃でしかないような二百円の給料」
「二百円の給料がどうして骨身にからみつき」
「生存の根底をゆさぶる」
「大声が胸に食いこんでくる」
「泥人形のくずれるように同胞たちがバタバタ倒れ」
「木も建物も何もない平な墓地になってしまう」
「夢の中の世界のような遥かな戯れ」
「生きる希望を根こそぎさらい去る」
「二百円に首をしめられ」
「二十七の青春のあらゆる情熱が漂白されて」
「二百円に首をしめられ」
「その女との生活が二百円に限定され」
「味噌だの米だのみんな二百円の咒文(じゅもん)を負い」
「女が咒文(じゅもん)に憑かれた鬼と化して」
「女がまるで手先のように咒文に憑かれた鬼と化して」
「女がまるで手先のように咒文(じゅもん)に憑かれた鬼と化して」
「胸の灯も芸術も希望の光もみんな消えて」
「胸の灯も芸術も希望の光もみんな消えて」
「生活自体が道ばたの馬糞のように踏みしだかれて」
「生活自体がグチャグチャに踏みしだかれて」
「生活自体が乾きあがって」
「生活自体が風に吹かれて飛びちり」
「生活自体が風に吹かれて飛びちり」
「生命の不安と遊ぶ」
「まるで最も薄い一枚のガラスのように喜怒哀楽の微風にすら反響し」
「喜怒哀楽の微風にすら反響し」
「放心と怯えの皺の間へ人の意志を受け入れ」
「二百円の悪霊すらもこの魂には宿ることができない」
「この女はまるで俺の人形のようではないか」
「家鴨(あひる)のような声をだして喚いている」
「寒気が彼の全身を石のようにかたまらせていた」
「一つの家に女の肉体がふえた」
「精神に新たな芽生えの唯一本の穂先すら見出すことができない」
「記憶の最もどん底の下積の底」
「白痴の顔がころがっているだけだった」
「白痴の顔がころがっている」
「彼には忘れ得ぬ二つの白痴の顔があった」
「はからざる随所に二つの顔をふと思いだし」
「彼の一切の思念が凍り」
「一瞬の逆上が絶望的に凍りついている」
「ただひときれの考えすらもない」
「虫のごとき倦まざる反応の蠢動(しゅんどう)を起す肉体」
「焼夷弾と爆弾では凄みにおいて青大将と蝮(まむし)ぐらいの相違があり」
「爆弾はザアという雨降りの音のようなただ一本の棒をひき」
「爆弾という奴は雨降りの音のようなただ一本の棒をひき」
「爆発の足が近づく時の絶望的な恐怖」
「よそ見をしている怪物に大きな斧で殴りつけられるようなものだ」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「ザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる」
「全くこいつは言葉も呼吸も思念もとまる」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っている」
「死の窓へひらかれた恐怖と苦悶」
「死の窓へひらかれた恐怖と苦悶」
「女の顔と全身にただ死の窓へひらかれた恐怖と苦悶が凝りついていた」
「苦悶は動き」
「苦悶はもがき」
「苦悶が一滴の涙を落している」
「もし犬の眼が涙を流すなら犬が笑うと同様に醜怪きわまる」
「彼等の心臓は波のような動悸をうち」
「言葉は失われ異様な目を大きく見開いているだけだ」
「全身に生きているのは目だけである」
「不安や恐怖の劇的な表情を刻んでいる」
「子供が大人よりも埋智的にすら見える」
「白痴の苦悶は、子供達の大きな目とは似ても似つかぬものであった」
「人間のものではなく虫のものですらもなく醜悪な一つの動きがあるのみ」
「やや似たものがあるとすれば芋虫が五尺の長さにふくれあがってもがいている動きぐらいのものだろう」
「人間が焼鳥と同じようにあっちこっちに死んでいる」
「まったく焼鳥と同じことだ」
「犬と並んで同じように焼かれている死体は全く犬死で」
「人間が犬のごとくに死んでいるのではなく」
「ちょうど一皿の焼鳥のように盛られ並べられている」
「戦争がたぶん女を殺すだろう」
「ラジオはがんがんがなりたてており、編隊の先頭は伊豆南端を通過した」
「家鴨(あひる)によく似た屋根裏の娘がうろうろしていた」
「ガラガラとガードの上を貨物列車が駆け去る時のような焼夷弾の落下音」
「岩を洗う怒濤の無限の音のような音が無限に連続している」
「高射砲の無数の破片の落下の音のような音が無限に連続している」
「府道を流れている避難民達」
「静寂の厚みがとっぷり四周をつつんでいる」
「孤独の厚みがとっぷり四周をつつんでいる」
「音響が頭上めがけて落ちてきた」
「人間と荷物の悲鳴の重りあった流れにすぎず」
「人間を抱きしめており」
「その抱きしめている人間に、無限の誇りをもつ」
「国道が丘を切りひらいて通っている」
「群集は国道を流れていた」
「声は一様につぶれ人間の声のようではなかった」
「鼾(いびき)は豚の鳴声に似ていた」
「まったくこの女自体が豚そのものだ」
「肉体の行為に耽りながら」
「戦争の破壊の巨大な愛情がすべてを裁いてくれる」
「俺と俺の隣に並んだ豚の背中」
「ギリシャにもローマにも近代にも似ていない、ただ人間に似ている」
「彼は昔、心中したことがあった」
「高い恋愛はもっと精神的なものだ」
「女中共は半可通の粋好みだから悪評は極上品で」
「土の中からぬきたてのゴボウみたいだ」
「頭をペコリとも下げないから土だらけのゴボウのようだ」
「富子の母の旦那からお金を貰わせて」
「八月十五日正午ラジオの放送が君が代で終る」
「進駐軍の味覚を相手に料理の腕をふるって」
「あちら名の気のきいた店名」
「気のきいた店名なぞ三ツ四ツあれこれ胸にたくわえて」
「気のきいた店名なぞ胸にたくわえていたのを投げだして」
「麻雀とか碁などで昼を送り、夜は虎になって戻ってくる」
「本当にそうだって、本当にそうでは困る」
「冷めたい宝石のような美しさがたたえられている」
「悲しくなるような美しさで」
「なぜ客が減ったか法外な値段の秘密、みんなかぎだした」
「宿六の守銭奴が乗りうつり」
「金銭の悪鬼と化し」
「金のためには喉から手を出しかねない」
「この飲んだくれとカケオチしようか」
「この放浪者よりは自信がある」
「一思いに、という気持ちがメラメラ燃え立って」
「惚れたハレたなんて、そりゃ序曲というもんで」
「第二楽章から先はもう恋愛は絶対に存在せんです」
「恋愛なんてどうせ序曲だけでしょうけどね」
「胸元へ短刀を突きつけられたような緊張が好き」
「何度とりかえても亭主は亭主にすぎない」
「女のことは金談にからまる景品にすぎない」
「あなたの専売特許みてえなもんじゃないか」
「大学者でも子供みたいに駄々をこねるんだな」
「精神も物質です」
「私はでて行きます、という物質」
「石炭みたいに胸の中の外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「胸の中の地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「胸の中のどういう地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
「心理をほじくれば矛盾不可決、迷路にきまってるよ」
「心理から行動へつながる道はその迷路から出てきやしない」
「あなたも今日は子供みたいだなア」
「一つの気分に親しんでいる」
「精神的にも一介の放浪者にすぎんです」
「資本を飲むから大闇ができず」
「金々々と云って多忙に働きかつ飲みかつ口説いている」
「最上先生の思想が地平すれすれに這い廻るにしても」
「東奔西走、極めて多忙にとび廻り飲み廻り口説き廻っている」
「蛇とイナゴの方からウナギやエビへ応用をきかせるわけにはいかねえだろう」
「蛇とイナゴの方からウナギやエビへ応用をきかせるわけにはいかねえだろう」
「女房が蛆(うじ)のごとくに卑しく見える」
「この店を飲みほすと思うと」
「浮気は宗教であるという思想についてですな」
「すなわち浮気は宗教であるですよ」
「男ならば女を救う、女ならば男を救う、これすなわち菩薩です」
「熱海市会は百万円のタメ息をもらす」
「島民はもっぱら化け物のような芋を食い」
「自殺者のメッカ」
「アベックは今も同じところにうごめいている」
「私は連夜徹夜しているから番犬のようなものだ」
「どこかバルザックの武者ぶりに似ている」
「悠々風のごとくに去来していた」
「人生は水のごとくに無色透明なものがあるだけで」
「人間は本来善悪の混血児であり」
「悪に対するブレーキ」
「人種が違うのである」
「完全に生活圏を出外れて一種の痴呆状態であり」
用例の出典
「勉強記」
「堕落論」
「FARCEに就て」
「白痴」
「石の思い」
「風博士」
「金銭無情」
「村のひと騒ぎ」
「日本文化私観」
「湯の町エレジー」
「続堕落論」
最終更新: 2024/01/20 18:16 (外部編集)