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• 「気のきいた店名なぞ三ツ四ツあれこれ胸にたくわえて」
• 「気のきいた店名なぞ胸にたくわえていたのを投げだして」
• 「麻雀とか碁などで昼を送り、夜は虎になって戻ってくる」
• 「なぜ客が減ったか法外な値段の秘密、みんなかぎだした」
• 「宿六の守銭奴が乗りうつり」
• 「金銭の悪鬼と化し」
• 「一思いに、という気持ちがメラメラ燃え立って」
• 「第二楽章から先はもう恋愛は絶対に存在せんです」
• 「恋愛なんてどうせ序曲だけでしょうけどね」
• 「胸の中の地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
• 「胸の中のどういう地層で外のどんな物質と一緒に雑居しているか」
• 「心理から行動へつながる道はその迷路から出てきやしない」
• 「精神的にも一介の放浪者にすぎんです」
• 「最上先生の思想が地平すれすれに這い廻るにしても」
• 「人間は本来善悪の混血児であり」
• 「悪に対するブレーキ」
• 「牡蠣先生は掛念の体に見える」
• 「主人は書斎の中で神聖な詩人になりすましている」
• 「トチメンボーの亡魂を退治（たいじ）られたところで」
• 「行徳の俎を無理にねじ伏せる」
• 「行徳の俎を遠く後に見捨てた気で」
• 「憐れな声が糸のように浮いて来る」
• 「ゲーが執念深く妨害をする」
• 「勝とう勝とうの心は談笑中にもほのめいて」
• 「輪郭の柔らかな瓜実顔」
• 「真白な頬の底に温かい血の色が差して」
• 「その真黒な眸（ひとみ）の奥に自分の姿が浮かんでいる」
• 「赤いまんまでのっと落ちて行った」
• 「唐紅の天道がのそりと上って来た」
• 「冷たい刃が一度に暗い部屋で光った」
• 「蒼い波が蘇枋の色に湧き返る」
• 「苦い顔をしたのは池辺三山君であった」
• 「専門家の眼に整って映るとは無論思わない」
• 「歓楽を嫉（ねた）む実生活の鬼の影が風流に纏（まつわ）る」
• 「長閑（のど）かな春がその間から湧（わ）いて出る」
• 「句と詩は天来（てんらい）の彩紋（さいもん）である」
• 「その興を捉えて横に咬み竪に砕いて」
• 「風流を盛るべき器（うつわ）が無作法（ぶさほう）な十七字」
• 「風流を盛るべき器（うつわ）が無作法（ぶさほう）な十七字」
• 「風流を盛るべき器（うつわ）が佶屈（きっくつ）な漢字」
• 「一粒の飯さえ容赦無く逆さまに流れ出た」
• 「意識の内容はただ一色の悶に塗抹されて」
• 「意識の内容は臍上方（さいじょうほう）三寸（さんずん）の辺（あたり）を行きつ戻りつする」
• 「胃の腑が不規則な大波を描くような異（い）な心持」
• 「日がまだ山の下に隠れない午過」
• 「吐血はこの吉報を逆襲すべく突如として起った」
• 「生から死に行く径路を最も自然に感じ得るだろう」
• 「文明の肉が社会の鋭どき鞭の下に萎縮する」
• 「文明の肉が社会の鋭どき鞭（むち）の下に萎縮する」
• 「風船の皮がたちまちしゅっという音と共に収縮したと一般の吐血」
• 「この相撲に等しいほどの緊張に甘んじて」
• 「自然は公平で冷酷な敵である」
• 「社会は不正で人情のある敵である」
• 「血を吐いた余は土俵の上に仆れた（たおれた）相撲と同じ」
• 「弱い光りは八畳の室を射た」
• 「腕は針の痕で埋まっていた」
• 「白髪に強いられて老の敷居を跨いでしまおうか」
• 「白髪を隠して、なお若い街巷（ちまた）に徘徊（はいかい）しようか」
• 「意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりました」
• 「あすこにある玉子焼きは恋愛などよりも衛生的だからね」
• 「前後に比類のない天才」
• 「一度も罷業という字に出会いません」
• 「夜目にも白じらと流れる嘔吐を」
• 「言わばロックを支配している星を」
• 「古い薪に新しい炎を加えるだけであろう」
• 「聖徒の数へはいることもできなかったかもしれません」
• 「幸福が漂っているように見えるのです」
• 「薄暗がりと戦ひながら」
• 「本は影の中に沈みはじめた」
• 「人生を見渡しても何も特に欲しいものはなかつた」
• 「雨上りの風は彼の感情を吹きちぎつた」
• 「人生は二十九歳の彼にはもう少しも明るくはなかつた」
• 「見すぼらしい町々の上へ反語や微笑を落しながら」
• 「唐黍は傷き易い彼の自画像にも違ひなかつた」
• 「彼と才力の上にも格闘出来る女に遭遇した」
• 「彼はこう天使と問答した」
• 「通り越しさえすれば死にはいってしまうのに違いなかった」
• 「あらゆる善悪の彼岸に悠々と立っている」
• 「人並に浮き沈みの苦労をして」
• 「酒さかなが少しずつ流れて来るような道」
• 「この商売一つにかじりついて」
• 「売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んで」
• 「売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んで」
• 「客から客へ滑り歩いてお酌して廻って」
• 「夫は仮面の底から私を見て」
• 「よくその方角にお気が附きましたね」
• 「谷川が岩を噛みつつ流れ出ていた」
• 「上半身が水面から躍りあがった」
• 「千羽の鶴は元旦の青空の中をゆったりと泳ぎまわり」
• 「梛木川がひとつき続いた雨のために怒りだした」
• 「水源の濁り水は六本の支流を合せてたちまち太り」
• 「水源の濁り水は身を躍らせて」
• 「水源の濁り水は山を韋駄天ばしりに駈け下り」
• 「水源の濁り水は家々の土台石を舐め」
• 「水気をふくんだ重たい風が地を這いまわる」
• 「廻りめぐっている水車の十六枚の板の舌」
• 「数千の火の玉小僧が列をなして畳屋の屋根のうえで舞い狂い」
• 「嘘の花はこの黄村の吝嗇から芽生えた」
• 「甘ったれた精神」
• 「泳ぎの姿を気にしすぎて子供を捜しあるくのがおろそかになり」
• 「嘘の花をひらかせた」
• 「いよいよ嘘のかたまりになった」
• 「嘘の最後っ屁の我慢できぬ悪臭をかいだ」
• 「現実を少しでも涼しくしようとして」
• 「次第次第に濃い嘘を吐いていってようやく真実の光を放つ」
• 「皮膚にべっとりくっついて」
• 「これは滑稽の頂点である」
• 「これこそ嘘の地獄の奥山だ」
• 「嘘の上塗りをして行く」
• 「三人のこらえにこらえた酔いが一時に爆発した」
• 「有頂天こそ嘘の結晶だ」
• 「自分の不活溌のどこかにそんな匂いを嗅いだ」
• 「動き出すことの禁ぜられた沼のように淀んだところ」
• 「沼の底から湧いて来る沼気（メタン）のようなやつ」
• 「妄想が不意に頭を擡（もた）げる」
• 「冷い白い肌に電燈の像を宿している可愛い水差し」
• 「鏡のなかの伎楽の面を恐れながら」
• 「淀んだ気持と悪く絡まった」
• 「淀んだ気持と悪く絡まった」
• 「自分が歩いてゆく」
• 「こちらの自分はその自分を眺めている」
• 「富士も丹沢山も一様の影絵を茜の空に写す」
• 「頭を出している赤い屋根」
• 「あの海に実感を持たねばならぬ」
• 「その音が例の音楽をやるのです」
• 「それを『声がわり』だと云って笑ったりしました」
• 「『チョッ。ぼろ船の底』」
• 「樫の木の花が重い匂いをみなぎらせていました」
• 「欅（けやき）が風にかさかさ身を震わす」
• 「住むべきところをなくした魂」
• 「魂は外界へ逃れようと焦慮（あせ）っていた」
• 「悔恨やいらだたしさが拡がってゆく」
• 「どんな小さな石粒も巨大な悲しみを浮かべている」
• 「もやしのように蒼白い堯（たかし）の触手」
• 「そこに滲み込んだ不思議な影の痕を撫でる」
• 「触手は不思議な影の痕を撫でる」
• 「樫の並樹は撓（し）ない踊りながら」
• 「枯葉が骸骨の踊りを鳴らした」
• 「枯葉が骸骨の踊りを鳴らした」
• 「たくさんの虫が悲しんだり泣いたりしていた」
• 「一匹の死にかけている虫」
• 「思索や行為は佯（いつわ）りの響をたてはじめ」
• 「彼の思索や行為は凝固した」
• 「日光が葉をこぼれている」
• 「虻（あぶ）が茫漠とした堯の過去へ飛び去った」
• 「堯（たかし）の虻（あぶ）は見つけた」
• 「幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
• 「その幽霊があの窓をあけて首を差し伸べそうな」
• 「白い冬の面紗（ヴェイル）を破って」
• 「悲しみが彼に触れた」
• 「浮雲が次から次へ美しく燃えていった」
• 「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
• 「燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた」
• 「お日さまの光がとうもろこしの影法師を投げ出す」
• 「お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせる」
• 「よくもひとをなぐったな」
• 「あまがえるなんというものは人のいいのいいものですから」
• 「お日さまの光は影法師を遠くまで投げ出し」
• 「世界はほとんどまっくらに見えました」
• 「その影法師は地面に美しく落ちていました」
• 「星座の図の白くけぶった銀河帯のようなところ」
• 「太陽や地球もそのなかに浮（うか）んでいるのです」
• 「足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へまわって来る」
• 「故国に片足突っ込んだ儘（まま）」
• 「空費された己の過去に対する補償であった」
• 「空費された己の過去に対する補償であった」
• 「過去への復讐であった」
• 「不遇時代に惨めに屈していた自尊心」
• 「自尊心は今や傲然と膨れ返らねばならぬ」
• 「都下の美女を漁っては後宮に納れた」
• 「不快さを追払おうと」
• 「前途の暗いものであることだけは確か」
• 「暗い予言の実現する前に」
• 「真黒な天が盤石の重さで押しつけている」
• 「不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」
• 「不吉な塊が私の心を圧えつけていた」
• 「いけないのはその不吉な塊だ」
• 「想像の絵具を塗りつけてゆく」
• 「無気力な私の触角にむしろ媚びて来るもの」
• 「私の触角に媚びて来る」
• 「飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている」
• 「電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる」
• 「眼の中へ刺し込んでくる」
• 「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
• 「私の心を圧えつけていた不吉な塊」
• 「不吉な塊が弛んで来た」
• 「執拗（しつこ）かった憂鬱が紛らされる」
• 「私は往来を軽やかな昂奮に弾んで」
• 「私の心を充たしていた幸福な感情」
• 「幸福な感情は逃げていった」
• 「香水の壜にも煙管にも私の心はのしかかってはゆかなかった」
• 「憂鬱が立て罩（こ）めて来る」
• 「奇怪な幻想的な城が赤くなったり青くなったりした」
• 「軽く跳りあがる心を制しながら」
• 「城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた」
• 「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収して」
• 「ひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収して」
• 「檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調を吸収してしまって」
• 「私の心が嫌悪にかわるのを見た」
• 「演奏者の白い十本の指が鍵盤に挑みかかっていた」
• 「孤独感が私を捕えた」
• 「ふとその完全な窒息に眼覚めたとき」
• 「なんという不思議だろうこの石化は？」
• 「言いようもないはかなさが私の胸に沁みて来た」
• 「服地の匂いが私の寂寥を打った」
• 「たちまち萎縮してあえなくその場に仆れてしまった」
• 「児戯に類した空想もながく生き延びる」
• 「私の古い空想はその場で壊れてしまった」
• 「灼熱した生殖の幻覚させる後光」
• 「毛根の吸いあげる液が行列を作って維管束のなかをあがってゆく」
• 「彼らはそこで美しい結婚をするのだ」
• 「光彩を流している」
• 「白い日光をさ青（お）煙らせている」