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レトリックの構文

このコーパスはベータ版です。未完成の箇所があります。

レトリックには、構文のパターンがある。構文 (construction) は、形式と意味の対である。修辞性構文 (figurative construction) は、レトリックの構文であり、ある形式のパターンと修辞的な意味のパターンの対である。

ここで記述されているのは、「AのようなB」「AはまるでBのようだ」といった、直喩・シミリ (simile)として議論されてきた構文が中心である。これまで、直喩は、隠喩の明示であると考えられてきた。

しかし、最近の研究から、隠喩の明示とは考えにくいが、形式としては「aのようなb」など、直喩と同じである事例が多数あることが分かってきた。このコーパスでは、広くレトリックの構文パターンを捉えるため、「修辞性構文」として、レトリックの構文を整理する。

隠喩志向構文

隠喩の基本的な概念構造は、Target = Source ← Genericという形式をもつと考えることができる。この概念構造を意味のスキーマとして内在している構文を、隠喩志向 (metaphor-oriented) 構文とよぶ。

隠喩志向構文の形式は、この隠喩的なスキーマの一部または全てを明示的に言語化している。Target (T) は目標領域 (target domain) の要素、Source (S) は起点領域 (source domain)の要素、Generic (G) は共通領域 (generic domain)(ないしは総称スペース (generic space) )の要素を表す。例えば、

  • 「宝石のように美しい瞳」

という比喩では、以下の対応が見て取れる。この意味で、この表現は「SのようにGT」という隠喩志向構文の例である。

  • Source = 宝石
  • Target = 瞳
  • Generic = 美しい

このタイプの例としては他に、「女のように優しい眉の間に」「幽霊のように痩せ細った西村さんのお母さん」「屏風のように立ち並んだ樫の木」などがある。

同じような例でも、例えば、

  • 「宝石のような瞳」

という比喩では、Genericにあたる要素は言語化されていない。この意味で、この表現は「SのようなT」という構文の例である。このタイプの他の例としては、「銀のような髪が五分ばかり生えて」「時どき過ぎる水族館のような電車」「けむりのようなかびの木」などがある。

以下は、Target、Source、Genericのどの要素を言語化しているかという観点から、隠喩志向構文をリストしたものである。同じ構文形式「AのようなB」であっても、「SのようなT」と「SのようなG」のように、意味的な対応が異なるバリエーションが含まれるものは、重複してリストされている。

Target = SourceGeneric

Target = Source ← Generic

Target = SourceGeneric

Target = Source ← Generic

写像の間接性

隠喩志向構文には、基本的にSourceとTargetの写像 (mapping) 関係が見られる。写像関係が見られるとは、Sourceの要素とTargetの要素のあいだに対応関係が見られるということを意味する。例えば、「宝石のような瞳」では、瞳=宝石という比喩的な対応関係が見られる。

しかし、いつもこの対応が直接構文形式に反映されるわけではない (小松原 2019) 。例えば 、次の2例には、同じ「の」「ような」という文法形式が含まれている。しかし、構文がはたしている役割は異なる。

  • (1a) 心には墨汁のようないらだたしさが広がってゆくのだった。
  • (1b) 仕立屋は、哲学者のような面持ちで静かに答えた。

(2a)(2b) に示されているように、(1a) の「いらだたしさ」と「墨汁」は類似関係にあるのに対し、(1b) では「仕立屋」と「面持ち」が比較されているわけではない。(3a)(3b)に示されるように、(1b) の指標は「仕立屋」が答える「面持ち」がまるで「哲学者」であることを示しているかのようだ、ということを表している。この違いは隠喩表現に縮約できるかという点にも反映される。(1a) は隠喩的縮約が可能で、(4a) のように「いらだたしさ」を「墨汁」で言い換えられるが、(4b) は不自然である。すなわち、(1a) の指標によって結ばれる概念は比喩的な対応関係にあるが、(1b) の概念間にそのような対応関係はない。

  • (2a) いらだたしさと墨汁は似ている。
  • (2b) ??面持ちと哲学者は似ている。
  • (3a) ??そのいらだたしさは墨汁であることを示している。
  • (3b) その面持ちは哲学者であることを示している。
  • (4a) 心には墨汁が広がってゆくのだった。
  • (4b) ??仕立屋は、哲学者で静かに答えた。

以上のように、(1a) と (1b) において「AのようなB」は異なる機能を担っている。(1a) のように、構文の形式的関係で結ばれる要素が、直接的に、比喩的な写像関係を表す機能をもつ構文を、直接写像構文とよぶ。直接写像構文の例としては、以下のような用例が挙げられる。

比例写像構文は、直接写像構文の下位構文であり、AがBであるのは、CがDであるのと同じだ、という比例の関係を表すことで、A=C、B=Dという比例的な比喩関係を表すものをいう。

直接写像構文に対して、(1b) のように、構文の形式的関係が結ばれる要素が、比喩的な写像関係に対応せず、比喩の意味をあくまで間接的に伝達する機能をもつ構文を、間接写像構文とよぶ。間接写像構文は、少なくとも、以下の4つに下位区分される。

間接写像構文のなかでも、主観性明示構文と挿入構文は、起点領域と目標領域を関係づけるという点で、比喩的な意味拡張の機能をもつ。これに対して、隠喩支援方略と例示方略は、起点領域や目標領域の概念をより詳しく精緻化する (i.e. 具体化する) という機能をもつ。以下では、これらの構文の区別について、より詳しく述べる。

主観性の明示

主観性明示構文は、異なるドメイン間の比喩的な意味拡張を示す機能をもつ構文の一つである。構文が表す修飾関係の被修飾部、ないしは叙述関係の述部がSourceの要素を表す。以下の例のように、叙述構造をもつものが多い。

主観性明示方略の直喩の構文は、多くが叙述的な隠喩表現に指標を付け加えたような形式をもつ。例えば、この例では、「ように感じた」を取り去ると「この語が自分の顔を打った」という隠喩になる。ここでは「顔を打った」という身体的経験と比喩的に対応しているのは、言葉が心に響いたという心理的経験であるが、この2つの経験の関係は言語化されておらず、あくまで間接的に理解される。「TがSように感じた」という構文は、Tに対するSの比喩的な叙述が主観的な感じ方にもとづいていることを明示していると解釈できる。

比喩の挿入と支援

挿入構文は、構文の形式的関係が起点領域と目標領域の関係を表しており、構文が表す修飾関係の被修飾部ないしは叙述関係の述部が目標領域の要素を表す。以下の例のように、修飾構文の用例が圧倒的である。

例えば (2) の比喩的な修飾句「X的な」を取り去ると、「婆さんの叫びが起り」という文字通りの表現が得られる。この意味で挿入方略の直喩は “括弧に入れる” ことができる比喩である。挿入方略は、比喩的な説明を挿入句的に組み込むことで、文字通りの文脈に異なるイメージを持ち込む表現方略であるといえる。

部分写像構文は、挿入構文と同じく、構文の形式的関係が起点領域と目標領域の関係を表す。このうち、以下の例のように、SourceとTargetの比喩的な混合イメージにおいて、SourceとTargetの部分全体関係が認められるものをいう。(3) では、「炎」が生物化されており、その想像上の炎でできた生物の舌が、具体的なSourceとして言語化されている。ここで、舌と生物には、部分全体関係が認められる。

隠喩支援構文は、起点領域の概念を具体化する機能をもつ。修飾構文の用例が多い。

構造的にも、機能的にも、挿入方略と隠喩支援方略は似ている。(4) における「魚のように」の機能は、手を「泳がせ」るという隠喩の内容を精緻化しイメージを具体化することである。(5) では「彼は {牡蠣のごとく / ??φ} 書斎に吸い付いて」という適切性の差から分かるように、新奇的で理解しにくい隠喩に、起点領域の概念を例示する修飾部が付加されることでイメージが具体化されている。

挿入方略は、文字通りの表現を比喩的に装飾するのに対して、隠喩支援方略は、比喩的な意味をもつ表現に同じドメインの概念を付け加えることで具体化し、いわば隠喩を支援し、理解しやすくするはたらきをになっているといえる。

例示構文

例示構文は、構文の形式的関係が、起点領域と共通領域の要素間関係を表す。構文が表す修飾関係の被修飾部ないしは叙述関係の述部が表す共通領域の概念を具体化する。以下のように、修飾構文の用例が多く見られる。

例示方略は、目標領域の概念がもつ性質や特徴、より正確には、比喩の根拠になる起点領域と目標領域の共通要素を具体化する。例えば (1) は「校長」が「狸」に喩えられているが、目標領域である校長の目に焦点が当てられ、その目が「狸」を例に比喩的に説明されている。さらにこの眼の比喩を介して、人間 (i.e. 校長) が動物 (i.e. 狸) と間接的に対応づけられる。(1) では、統語的に直接結合されているのは、起点領域の要素を表す語句と、目標領域と起点領域の比較の着眼点を表す語句である。それにもかかわらず、意味解釈の上では、主題や修飾部に含まれる名詞句が表す概念間に写像関係 (i.e. 校長=狸、お八重=女神) が構築されている。

換喩志向構文

隠喩志向構文が、隠喩のスキーマの要素を表すのに対して、換喩志向構文は、換喩のスキーマの要素を表す。 直喩・シミリ (simile)は、隠喩との対比で規定されてきた用語である。しかし、従来直喩としてあつかわれてきた表現と同じ形式をもつにもかかわらず、意味的には換喩的な転義が関係する事例が存在する。直喩に含まれる文法形式は、ある表現が隠喩的な意味をもつことを示すはたらきをすることが多いが、必ずしもそうではなく、換喩的な意味合いを示す場合もある。

換喩の基本的な概念構造は、Source > Target ← Frameという形式をもつと考えることができる。この概念構造を意味のスキーマとして内在している構文を、換喩志向 (metonymy-oriented) 構文とよぶ。Source (S) (または媒体 (vehicle))は換喩の意味処理における認知的な参照点 (reference point)となる要素、Target (T) は参照点からのアクセスのターゲットとなる要素、Frame (F) は参照点からターゲットへのアクセスのフレーム (frame) 構造を喚起する要素を表す。換喩志向構文の形式は、この換喩的なスキーマの一部または全てを明示的に言語化している。例えば、

  • 「物に取り憑かれたように頭がガンガンと痛み出した」

という比喩では、以下の対応が見て取れる。この例では、頭痛の原因が、何かに取り憑かれたことであるかのように感じることが表現されている。話者の主観的認識において、「物に取り憑かれる」ことは「頭が痛む」ことの原因として解釈されている。この意味では、両者の間には時間的な換喩関係(=因果関係)がある。したがって、この表現は「SようにT」という換喩志向構文の例(より具体的には推量構文の例)であると言える。

  • Source = 取りつかれる
  • Target = 頭が痛む

このタイプの例としては他に、「坑夫は毒気を抜かれたように口をポカンと開いた」「文作は身体中の血が一時に凍ったようにドキンとした」などがある。

以下は、Target、Source、Frameのどの要素を言語化しているかという観点から、換喩志向構文をリストしたものである。同じ構文形式「AのようなB」であっても、「SようにT」と「TようにS」のように、意味的な対応が異なるバリエーションが含まれるものは、重複してリストされている。

Source > TargetFrame

Source > Target ← Frame

Source > Target ← Frame

Source > Target ← Frame

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最終更新: 2019/09/26 16:13