index:mapping
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このページでは用例の意味論的アノテーションについて述べています。 | このページでは用例の意味論的アノテーションについて述べています。 | ||
- | ===== アノテーションの方針 ===== | + | ===== 意味論的アノテーション ===== |
- | ==== 意味分類の枠組み ==== | + | ==== 枠組み ==== |
+ | |||
+ | 本コーパスでは、「語彙レベル」と「写像レベル」の2つのレベルで意味論的アノテーションを行っています。 | ||
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+ | === 語彙レベル === | ||
意味クラスの分類は『[[https://clrd.ninjal.ac.jp/goihyo.html|分類語彙表-増補改訂版データベース]]』(以下『分類語彙表』)を用いています。それぞれの用例の意味には、『分類語彙表』のIDが紐付けられており、そこから意味の分類をたどることができます。 | 意味クラスの分類は『[[https://clrd.ninjal.ac.jp/goihyo.html|分類語彙表-増補改訂版データベース]]』(以下『分類語彙表』)を用いています。それぞれの用例の意味には、『分類語彙表』のIDが紐付けられており、そこから意味の分類をたどることができます。 | ||
ライン 15: | ライン 19: | ||
* Class1つには、平均して10語程度が含まれます。同じClassの語は似た意味を持っているため、具体性の高い意味分類のカテゴリーと考えることができます。 | * Class1つには、平均して10語程度が含まれます。同じClassの語は似た意味を持っているため、具体性の高い意味分類のカテゴリーと考えることができます。 | ||
- | ==== 用例の分析方法 ==== | + | === 写像レベル === |
- | [[category:metaphor]]や[[category:metonymy]]などの用例では、ある語が字義通りの意味ではない、別の意味を表しています。字義通りの意味の領域を「起点領域」、文脈上の意味の領域を「目標領域」といいます。何の起点領域が、何の目標領域に対応するか、これを分析することが本コーパスでの意味論的分析の着眼点です。 | + | [[category:metaphor]]や[[category:metonymy]]などの用例では、ある語が字義通りの意味ではない、別の意味を表しています。字義通りの意味の領域を「起点領域」、文脈上の意味の領域を「目標領域」といいます。何の起点領域が何の目標領域に対応するか、これを分析することが本コーパスでの意味論的分析の着眼点です。 |
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+ | 以下のページは、『分類語彙表』にもとづく起点領域と目標領域のリストです。 | ||
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+ | * [[index:source]] | ||
+ | * [[index:target]] | ||
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+ | 認知言語学では、この対応関係を写像 (mapping) といいます。対応関係のタイプとしては、以下の3つを設定します。 | ||
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+ | * 概念メタファー([[category:metaphor]]や[[category:simile]]などが中心、「=」で示す) | ||
+ | * 概念メトニミー([[category:metonymy]]、[[category:synecdoche]]、[[category:transferred-epithet]]などが中心、「>」で示す) | ||
+ | * 概念コントラスト([[category:antithesis]]、[[category:irony]]、[[category:oxymoron]]などが中心、「<-->」で示す) | ||
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+ | このコーパスでは、個別の用例で観察された語をもとに、Classの関係を記述しています。Classレベルでの記述は非常に細かいので、体系性をもった概念的な写像とみなすことはできません。ClassのSection、Groupレベルをたどっていくと、個々の写像がグループ分けされて表示されるので、これらが概念レベルの意味のパターンにあたると考えることができます。 | ||
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+ | ==== 用例の分析 ==== | ||
以下のような方針で、具体的な用例の意味論的アノテーションを行っています。(参考: | 以下のような方針で、具体的な用例の意味論的アノテーションを行っています。(参考: | ||
ライン 26: | ライン 45: | ||
* [[index:mapping]]は、起点領域のClassと目標領域のClassの対応関係であると考えます。 | * [[index:mapping]]は、起点領域のClassと目標領域のClassの対応関係であると考えます。 | ||
- | ==== 意味分類の例 ==== | + | ==== 例 ==== |
例えば[[ex:a0755]]では「木の葉」が「雨」に喩えられています。 | 例えば[[ex:a0755]]では「木の葉」が「雨」に喩えられています。 | ||
ライン 48: | ライン 67: | ||
* 目標領域のClass:[[target:1.5410-15]] | * 目標領域のClass:[[target:1.5410-15]] | ||
- | 写像は[[mapping:metaphor--1.5153-1--1.5410-15]]です。 | + | 写像は[[mapping:metaphor--1.5153-1--1.5410-15]]です。写像の見出しはClassレベルで表示しています。 |
- | 最上位の分類であるDomainは4個で、「体」は主に名詞、「用」は主に動詞、「相」は主に形容詞、「その他」はその他の語彙からなる語が分類されています。 | ||
- | ===== 写像 ===== | + | ===== 意味のパターンの類型 ===== |
- | 本コーパスでは、用例の起点領域と目標領域の対応関係に注目して意味の分析を行っています。認知言語学では、この対応関係を写像 (mapping) といいます。対応関係のタイプとしては、以下の3つを設定します。 | + | 「写像レベル」のアノテーションとして、本コーパスでは「概念メタファー」「概念メトニミー」「概念コントラスト」に注目します。 |
- | + | ||
- | * 概念メタファー([[category:metaphor]]や[[category:simile]]などが中心) | + | |
- | * 概念メトニミー([[category:metonymy]]や[[category:transferred-epithet]]などが中心) | + | |
- | * 概念コントラスト([[category:irony]]や[[category:oxymoron]]などが中心) | + | |
- | + | ||
- | このコーパスでは、個別の用例で観察された語をもとに、Classの関係を記述しています。Classレベルでの記述は非常に細かいので、体系性をもった概念的な写像とみなすことはできません。ClassのSection、Groupレベルをたどっていくと、個々の写像がグループ分けされて表示されるので、これらが概念レベルの意味のパターンにあたると考えることができます。 | + | |
==== 概念メタファー ==== | ==== 概念メタファー ==== | ||
- | 概念メタファー (conceptual metaphor) は、ある概念領域と、別の概念領域の対応関係の集合です。認知言語学では、概念メタファーが、言語のみならず、概念化、思考、文化の分析に重要であると考えられてきました。例えば「人生」を「旅」であると喩える概念メタファーです。概念メタファーが基盤になる表現としては、レトリック研究の中心である[[category:metaphor]]の用例が挙げられます。 | + | 概念メタファー (conceptual metaphor) は、ある概念領域と、別の概念領域の対応関係の集合です。認知言語学では、概念メタファーが、言語のみならず、概念化、思考、文化の分析に重要であると考えられてきました。例えば、「孤独な一本道を進んでいく」という表現が比喩だとすれば、「人生」を「旅」であると喩える概念メタファーの例です。概念メタファーが基盤になる表現としては、レトリック研究の中心である[[category:metaphor]]の用例が挙げられます。例えば、上の隠喩表現は[[mapping:metaphor--2.1522-1--2.3330-2]]という写像の例です。 |
==== 概念メトニミー ==== | ==== 概念メトニミー ==== | ||
- | 概念メトニミー (conceptual metonymy) は、ある概念領域領域をフレームとする要素間関係の集合である。概念メトニミーの概念は、概念メタファーから派生的に導かれたものである。基本的な想定は、[[category:metonymy]]にも、[[category:metaphor]]と同じように、概念レベルでの一般的パターンがあるだろう、というものである。 | + | 概念メトニミー (conceptual metonymy) は、ある概念領域における要素の対応関係の集合です。概念メトニミーは、伝統的な修辞学における[[category:metonymy]]の意味分類に近いものです。例えば、「部分」が「全体」を表す(例えば「チームで参加するには__頭__数が足りない」)、「衣服」が「人物」を表す(例えば「成人式は__振袖__が多かった」)、「地名」が「産物」を表す(例えば「やっぱり__ボルドー__は高い」)といったような分類です。例えば最初の例では、「頭」という身体部位と「人」はどちらも、人間の身体構造に関する概念領域の要素で、[[mapping:metonymy--1.5601-1--1.2000-1]]という写像の例です。 |
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- | 概念メトニミーは、伝統的な修辞学分類に非常に近い。例えば、部分>全体、衣服>人物、地名>産物といったような分類が、修辞学ではなされてきた。これは、換喩表現に共通してみられる意味的なパターンを抽出しているとみなすことができる。しかし、ボトムアップに用例を収集していくと、従来の分類にはあてはめにくいものも多く見られる。従来の理論は概して抽象的なレベルでの分類を行っている。このコーパスでは、個別の用例レベルで意味クラスを記述し、換喩の写像関係を捉えていくことで、概念メトニミーを帰納的に導出することを目指す。 | + | |
==== 概念コントラスト ==== | ==== 概念コントラスト ==== | ||
- | 概念コントラスト (conceptual contrast) は、ある尺度において対比される2つの要素の写像関係である。概念メタファー、概念メトニミーは認知言語学で取り沙汰されてきたが、概念コントラストは、このコーパスで独自に設けた類である。その設定理由はきわめて実際的なもので、[[category:oxymoron]]、[[category:irony]]、[[category:paradox]]などの、対比・矛盾系のレトリックの意味記述には、対比関係の記述が必要であるからである。対比 (contrast) は、概念メトニミーの下位区分であると考えるアプローチもあるが、このコーパスでは、独立した概念基盤として記述する。 | + | 概念コントラスト (conceptual contrast) は、ある概念に関する判断尺度の両極の対応関係です。概念コントラストは、このコーパスで独自に設けた写像のタイプです。その理由は、[[category:oxymoron]]、[[category:irony]]、[[category:paradox]]などの、対比や矛盾といった意味が関わるレトリックの記述には、このような尺度の両極についての記述枠組みが必要になるからです。例えば、大雨の日に「本当にいい天気!」と皮肉的に言って遠足が中止になったことをなげく場合は、[[mapping:contrast--3.1332-1--3.1332-5]]のような評価の対比が重要です。 |
- | [[category:irony]]は語用論では最もよく論じられてきたレトリックの一つであるが、認知言語学では、アイロニーの概念的体系を記述する研究はなされてこなかった。「素晴らしい天気!」で大雨を描写する、といった典型例では、素晴らしい<-->最悪、のような評価の対比が重要であることは明らかである。このコーパスでは、[[category:oxymoron]]や[[category:paradox]]の基盤も、同様の対比関係であると考え、個別の用例の意味クラスを記述することで、概念コントラストの体系を素描することを目指す。 | + | ===== アノテーション結果 ===== |
- | ===== 意味のパターン一覧 ===== | + | ※用例数は2024年1月22日現在 |