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「薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て」

Page Type Example
Example ID a2448
Author 梶井基次郎
Piece 「桜の樹の下には」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 45

Text

二三日前、俺は、ここの溪(たに)へ下りて、石の上を伝い歩きしていた。水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰(でく)わした。それは溪の水が乾いた磧(かわら)へ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。

Context Focus Standard Context

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 女神 = 薄羽かげろう ばった=神

Grammar

Construction AがBのようにC
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source
C Target

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A C が-主語
2 B の[ように] C の-「ようだ」「ごとし」で受ける場合
3 B [の]ように C 様-類似-連用形

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 泡から生まれたというアフロディーテの神話のイメージを用いて、飛沫から出てくる薄羽かげろうの美しさを際立たせる。
対照法・対照 (antithesis) 生に関わるイメージを提示することで、後続文脈における無惨な薄羽かげろうの死に様との対称を作る。
暗示引用 (allusion) 「ヴィーナスの誕生」を引き合いに出すことで、生に関わるイメージを提示する。