目次

「土の中からぬきたてのゴボウみたいだ」

Page Type Example
Example ID a1772
Author 坂口安吾
Piece 「金銭無情」
Reference 『坂口安吾』
Pages in Reference 296

Text

富子の母親にはお金持の旦那があって金に不自由がないから、娘を芸者に一稼ぎなどという考えはなく、然るべき男と結婚させてと大いに高い望みをかけている。だから四十男の貧乏な哲学者[=清人]など話の外だと思っており、無口で陰鬱で大酒のみで礼儀作法を心得ず、社交性がみじんもなくて、おまけに風采はあがらない。一つも取柄といふものがないから頭から罵倒する。山奥から来て花柳地(かりゅうち)に住みついた女中共は半可通の粋好みだから悪評は決定的の極上品で、土の中からぬきたてのゴボウみたいだと言う。なるほど、うまい。全く孤影悄然(こえいしょうぜん)、挨拶一つ言わず、頭をペコリとも下げないから土だらけのゴボウのようだ。

Context Focus Standard Context
土の中からぬきたてのゴボウ (男)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 ごぼう = 男=菊

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Source
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A 言う は-既出のものに関する判断の主題
2 B みたいだ[と言う] みたい-類似-終止形
3 B [みたいだ]と[言う] と-内容指定
4 B [みたいだと]言う 言う(いう)

Pragmatics

Category Effect
アナロジー・類推 (analogy) ゴボウという直線的であり曲げることの出来ない植物を引き合いに出すことで、うだつの上がらない哲学者について、愛想が悪く頭を下げて挨拶一つもしないことを示す。
イメジャリー・イメージ (imagery) 見た目を繕わない野暮な様子であることを、「土から抜きたて」という野性性を感じさせる指定を行うことで表す。
人物描写 (description of a character) ゴボウのイメージを引き合いに出すことで、当該人物の人となりを具体的に想起させる。