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「人間のものではなく虫のものですらもなく醜悪な一つの動きがあるのみ」

Page Type Example
Example ID a1740
Author 坂口安吾
Piece 「白痴」
Reference 『坂口安吾』
Pages in Reference 274

Text

それはただ本能的な死への恐怖と死への苦悶があるだけで、それは人間のものではなく、虫のものですらもなく、醜悪な一つの動きがあるのみだった。やや似たものがあるとすれば、一寸五分ほどの芋虫が五尺の長さにふくれあがってもがいている動きぐらいのものだろう。

Context Focus Standard Context
虫のもの (苦悶)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 = 人間 人間=昆虫

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B は-既出のものに関する判断の主題
2 B で[すらもなく] て-補助用言に連なる用法
3 B [で]すら[もなく] すら-強調的に例示(主格以外の提題)
4 B [ですら]も[なく] も-強調
5 B [ですらも]なく ない(ない)

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 人間ではない存在である虫に比することで、死への苦悶の様子が非人間的であるという印象を与える。
訂正・換言 (epanorthosis) 死への苦悶の様子が非人間的であることを虫に比して表現したうえで、それを否定することで生物の行うものですらないことを示す。
縁語・縁装法 (-) 死への苦悶の様子が非人間的であることを虫に比して表現したうえで、それを否定することで生物の行うものですらないことを示し、後続の抽象化した「醜悪な一つの動き」という表現を導く。
寓意・アレゴリー (allegory) 後続文では「一寸五分ほどの芋虫」に喩えており、結局のところ虫の比喩が用いられている。
誇張法 (hyperbole) 白痴が人間的でない様子、さらに喩えとして虫、すなわち生き物ですらない様子を強調している。