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「車の響きが彼等の凱歌のように聞える」

Page Type Example
Example ID a2159
Author 梶井基次郎
Piece 「橡の花」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 237

Text

電車に乗っていてもう一つ困るのは車の響きが音楽に聴えることです。(これはあなたも何時だったか同様経験をしていられることを話されました)私はその響きを利用していい音楽を聴いてやろうと企てたことがありました。そんなことから不知不識(しらずしらず)に自分を不快にする敵を作っていた訳です。「あれをやろう」と思うと私は直ぐその曲目を車の響き、街の響きの中に発見するようになりました。然し悪く疲れているときなどは、それが正確な音程で聞えない。――それはいいのです。困るのはそれがもう此方の勝手では止まらなくなっていることです。そればかりではありません。それは何時の間にか私の堪(たま)らなくなる種類のものをやります。先程の婦人がそれにつれて踊るであろうような音楽です。時には嘲笑(ちょうしょう)的にそしてわざと下品に。そしてそれが彼等の凱歌(がいか)のように聞える――と云えば話になってしまいますが、とにかく非常に不快なのです。

Context Focus Standard Context
彼等の凱歌 車の響き、街の響き

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 軍歌 = ざわめき 騒音=軍歌

Grammar

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B が-主語
2 B の[ように聞こえる] の-「ようだ」「ごとし」で受ける場合
3 B [の]ように[聞こえる] 様-類似-連用形
4 B [のように]聞こえる 判ずる・判じる(はんずる・はんじる)

Pragmatics

Category Effect
擬人法 (personification) 「彼等」という呼称により、無生物である電車に人間的な人格や心理を付与する。
イメジャリー・イメージ (imagery) 無意味な音の連続であるはずの電車の走行音に、凱歌と同様の有意味なメロディーやリズムを付与する。
心理描写 (psychological-description) 電車の走行音などの無意味な音に、リズムとメロディーという意味を有する音楽を感じ取ってしまう発話者が街の様々な事物に音楽を否応なく感じ取ってしまい不快に感じることを、音を発する事物たちが自分に勝利したのだと認識していると表すことで表現する。