目次

「しかし私はキリストではない」

Page Type Example
Example ID a1236
Author 梶井基次郎
Piece 「交尾」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 58

Text

私はかつて独逸のペッヒシュタインという画家の『市に嘆けるクリスト』という画の刷り物を見たことがあるが、それは巨大な工場地帯の裏地のようなところで跪いて祈っているキリストの絵像であった。その連想から、私は自分の今出ている物干しがなんとなくそうしたゲッセマネのような気がしないでもない。しかし私はキリストではない。

Context Focus Standard Context
キリスト (私)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 キリスト = 我=釈迦

Grammar

Construction AはBではない
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B は-既出のものに関する判断の主題
2 B で[はない] て-補助用言に連なる用法
3 B [で]は[ない] は-否定的主張
4 B [では]ない ない(ない)

Pragmatics

Category Effect
ユーモア (humour) 物干しに出ている自身の姿をキリストを引き合いに出しながら叙述することで、威厳のギャップから滑稽感を生み出す。
前景化 (foregrounding) 「キリストではない」という誰から見ても当然の否定を挿入することで、滑稽感を際立たせる。
対照法・対照 (antithesis) 物干しの自分とゲッセマネのキリストという対比関係が生じる。
暗示引用 (allusion) 物干しに出ている自身の姿をキリストを引き合いに出しながら叙述する。
メタ言語 (metalanguage) 自分の置かれた状況と、キリストの置かれた状況に類似性があることから、自分がキリストのようであることが類推されるが、その類推が成り立たないことをメタ的に注釈している。