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「言いようもないはかなさが私の胸に沁みて来た」

Page Type Example
Example ID a2414
Author 梶井基次郎
Piece 「器楽的幻覚」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 34

Text

私は寸時まえの拍手とざわめきとをあたかも夢のように思い浮かべた。それは私の耳にも目にもまだはっきり残っていた。あんなにざわめいていた人びとが今のこの静けさ――私にはそれが不思議な不思議なことに思えた。そして人びとは誰一人それを疑おうともせずひたむきに音楽を追っている。言いようもないはかなさが私の胸に沁みて来た。私は涯(はて)もない孤独を思い浮かべていた。音楽会――音楽会を包んでいる大きな都会――世界。

Context Focus Standard Context
私の胸に 沁みて来た (感じられた)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 染みる = 感じる 感じる・感ずる=染みる

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
カテゴリー転換 (-) 「はかなさ」という感情が、液体が布に染み込んでくときのようにゆっくりとしかし着実に、「私」の心の中ではっきりと感じられるようになっていった、という心情の変化が表現されている。
異例結合 (-) 「はかなさ」という抽象体に対して液体の浸透を表す「沁みる」を述語として用いる。
心理描写 (psychological-description) 「私」の胸に去来した儚さを描写する。
アナロジー・類推 (analogy) 心情の変化が物理的な状態の変化の類推によって捉えられている。