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「書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように見える」

Page Type Example
Example ID a2358
Author 梶井基次郎
Piece 「檸檬」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 14

Text

生活がまだ蝕(むしば)まれていなかった以前私の好きであった所は、たとえば丸善であった。赤や黄のオードコロンやオードキニン。洒落(しゃれ)た切子細工や典雅なロココ趣味の浮模様を持った琥珀色や翡翠色(ひすいいろ)の香水壜(こうすいびん)。煙管(きせる)、小刀、石鹸(せっけん)、煙草(たばこ)。私はそんなものを見るのに小一時間も費すことがあった。そして結局一等いい鉛筆を一本買うくらいの贅沢をするのだった。しかしここももうその頃の私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように私には見えるのだった。

Context Focus Standard Context

Rhetoric

Semantics

Grammar

Construction AのB
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B の-同格(同じ内容)

Pragmatics

Category Effect
心理描写 (psychological-description) 丸善の高級な品物に手が届かないような困窮した生活を送る発話者にとって、それらの品物を買うならば借金が必要であり、その後取り立てに苦しむであろうという認識を表す。発話者の鬱屈した心理と生活難が合わさることによる幻視的な認識。
イメジャリー・イメージ (imagery) 借金とりの負債者にしつこく詰め寄る厳しさを想起させ、書籍・学生・勘定台があたかもそのようなしつこさや厳しさのある事物であるかのような印象を与える。
評価 (evaluation) 忌避の対象である借金とりになぞらえることで、書籍・学生・勘定台に対する否定的な評価を示す。