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「私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけてゆく」

Page Type Example
Example ID a2353
Author 梶井基次郎
Piece 「檸檬」
Reference 『梶井基次郎』
Pages in Reference 12

Text

時どき私はそんな路を歩きながら、ふと、そこが京都ではなくて京都から何百里も離れた仙台とか長崎とか――そのような市へ今自分が来ているのだ――という錯覚を起こそうと努める。私は、できることなら京都から逃げ出して誰一人知らないような市へ行ってしまいたかった。第一に安静。がらんとした旅館の一室。清浄な蒲団(ふとん)。匂いのいい蚊帳(かや)と糊(のり)のよくきいた浴衣。そこで一月ほど何も思わず横になりたい。希(ねが)わくはここがいつの間にかその市になっているのだったら。――錯覚がようやく成功しはじめると私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけてゆく。なんのことはない、私の錯覚と壊れかかった街との二重写しである。そして私はその中に現実の私自身を見失うのを楽しんだ。

Context Focus Standard Context

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 絵具 = 想像 想像=顔料

Grammar

Construction AのB
Mapping Type 概念メタファー

 

Lexical Slots Conceptual Domain
A Target
B Source

 

Preceding Morpheme Following Usage
1 A B の-同格(同じ内容)

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 絵の具を塗りつけることにより色を延長させていく行為になぞらえることで、「私」が想像する像に、絵画のような具体性と色彩を感じさせる。
心理描写 (psychological-description) 絵の具を塗りつけることにより色を延長させていく行為になぞらえることで、「私」が居住地の京都から遠い地に来ているという錯覚を途切れさせずに展開している様子を描く。