目次

「雨上りの風は彼の感情を吹きちぎつた」

Page Type Example
Example ID a1975
Author 芥川龍之介
Piece 「或阿呆の一生」
Reference 『芥川龍之介』
Pages in Reference 410

Text

彼は雨上りの風の中に或新らしい停車場のプラツトフオオムを歩いてゐた。空はまだ薄暗かつた。プラツトフオオムの向うには鉄道工夫が三四人、一斉に鶴嘴(つるはし)を上下させながら、何か高い声にうたつてゐた。雨上りの風は工夫の唄や彼の感情を吹きちぎつた。彼は巻煙草に火もつけずに歓びに近い苦しみを感じてゐた。『センセイキトク』の電報を外套のポケツトへ押しこんだまま。

Context Focus Standard Context
感情を 吹きちぎつた (誰にも感じさせないようにした)

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 吹き飛ばす = 消し去る 消える=弾む

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
擬人法 (personification) 風が人の感情を奪う主体かのように表現する。
擬物法・結晶法 (hypostatization) 彼が抱いていた感情が、あたかも衣服が風によって引きちぎられ剥ぎ取られてしまうような力強さと乱暴さをもって、風によって無理矢理に消し去られてしまったという印象を与える。
複合語・複合 (compound) 「吹きちぎる」という臨時的な複合語を作ることで、「風」を意志的に「ちぎる」主体として表現する。