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「行徳の俎を遠く後に見捨てた気で」

Page Type Example
Example ID a1843
Author 夏目漱石
Piece 「吾輩は猫である」
Reference 『夏目漱石』
Pages in Reference 287

Text

迷亭君は気にも留めない様子で『どうせ僕などは行徳(ぎょうとく)の俎(まないた)と云う格だからなあ』と笑う。『まずそんなところだろう』と主人が云う。実は行徳の俎と云う語を主人は解(かい)さないのであるが、さすが永年教師をして胡魔化(ごまか)しつけているものだから、こんな時には教場の経験を社交上にも応用するのである。『行徳の俎というのは何の事ですか』と寒月が真率(しんそつ)に聞く。主人は床の方を見て『あの水仙は暮に僕が風呂の帰りがけに買って来て挿(さ)したのだが、よく持つじゃないか』と行徳の俎を無理にねじ伏せる。『暮といえば、去年の暮に僕は実に不思議な経験をしたよ』と迷亭が煙管(きせる)を大神楽(だいかぐらの)ごとく指の尖(さき)で廻わす。『どんな経験か、聞かし玉え』と主人は行徳の俎を遠く後に見捨てた気で、ほっと息をつく。

Context Focus Standard Context
行徳の俎を 見捨てた (完全にごまかす) 気で、ほっと息をつく

Rhetoric

Semantics

Source Relation Target Pattern
1 見捨てる = ごまかす 陳弁する=仲たがいする

Grammar

Construction
Mapping Type

 

Lexical Slots Conceptual Domain

 

Preceding Morpheme Following Usage

Pragmatics

Category Effect
イメジャリー・イメージ (imagery) 「見捨てる」行為の典型的イメージを喚起し、「行徳の俎」の価値や必要性の低さを想起させる。
評価 (evaluation) 「行徳の俎」が無価値で不要なものであり、その存在は認めるものの、取り合わず捨て去って差し支えないという態度を表現している。
人物描写 (description of a character) 「行徳の俎」が無価値で不要であると振る舞うことで、それを理解できないという事実をごまかそうとしている様子を描いている。